何の自己主張もしなかった浮舟が流されるように薫に抱かれ、匂宮に犯され、苦悩した時……つまりは壁にぶち当たった時、「自分は“不用”の人だから」と死を志向するという設定も、親に人生を乗っ取られた毒親育ちの自己評価の低さを表しています。

『源氏物語』は日本初の毒親物語

源氏物語』には、親に利用されながらも一族繁栄をもたらした女たちが多々描かれていますが、浮舟という女房腹、つまり劣り腹のヒロインを最後に登場させることによって、娘自身の感情に添った、日本初の毒親物語を実現した、と言えます。

大塚ひかり『毒親の日本史』(新潮新書)

ちなみに浮舟の自殺は未遂に終わり、縁もゆかりもない尼僧に助けられます。

記憶を喪失していた浮舟は、やがて記憶を取り戻しますが、その生存をつきとめた薫から会いたいという手紙をもらうものの、「人違いでしょう」と拒絶。薫も、「また、ほかの男が隠して囲い者にしているのかな」と見当違いな勘ぐりをして、長い物語の幕は閉じられます。

毒になる親、毒になる人々から逃れて、自分を取り戻すには、結局は離れるしかない、ということなんでしょう。これまた、現代的というか、古今東西、普遍的な人間関係の真理といえます。

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