疑問の残るホストクラブのさまざまな「引かれ物」

前述の通り、Aさんは毎月ホストクラブに「厚生費」を払っている。その他のホストクラブでも、「雑費」「旅行積立金」などのさまざまな名目で給料から一定額が引かれることが多いようだ。

ホストの契約は「個人事業主」であり、社会保障はない。しかし、店側は頻繁に旅行やレクリエーションを企画し、帰属意識を高めていく。あるホストクラブの代表は「従業員が慢性的に不足しているのがホスト業界。店側はホストが辞めないようにさまざまな工夫をしている」と述べていた。

コロナ禍でもそうした「工夫」は目についた。店の代表がホストにご飯の差し入れをしたり、寮費を無料にするなどの対策だ。

「目先のお金よりも経験を買いたい」

「自分のインフルエンス力がついてきたら、『会ってみたい』だけじゃなくて、『飲んでみたい』と思ってもらえるんじゃないかなと思っています」

両親ともに水商売経験者。夜の世界で「簡単に稼げる」とは思っていなかったが、自信はあった。しかし予想よりも売り上げが伸び悩んでいるのが現状だ。店舗のナンバーワンの売り上げは月400万~500万円前後。対してAさんの売り上げは月1万円で、ナンバーワンへの道のりは遠い。

売れたホストは大手店舗に移籍してしまうケースが多い。しかし、たとえ売れてもAさんは今の店舗を離れる気はない。

「現実は見つつも、夢を追いたいタイプなんで。今の店を、他の大手ほどじゃないにしても自分の力で大きくしたい。ホスト=怖い人っていうイメージを払拭ふっしょくしてくれて下から意見を言いやすい今の店舗が好きなので、ここで頑張りたいです」

なんとなくで選んだ今の店舗だが、働いていくうちに愛着がわき、今では自分が売れることで店舗を大きくしていきたいという目標を持つまでに至ったそうだ。

たとえ昼の仕事でもっとお金をもらえても、バーの開業資金が貯まるまではホストを続けたいとAさんは話す。

「長いスパンでキャリアを考えているんです。目先のお金よりも経験を買いたいと思ってホストをしています」

低賃金で働くインターン大学生と同じような理論だが、彼にとってホストで働くということは給料以上の価値があるようだ。