高額治療器も自腹「身体にかけるお金は出し惜しみしません」

瀬古利彦がソウル五輪の男子マラソンで9位に終わり、シューズを脱いだのは32歳のときだった。佐藤は34歳になっても、まだまだ自分が成長していることを実感しているという。

「昨年12月の日本選手権10000mは7位でしたけど、やることをしっかりやっていれば、上位で戦えますし、まだまだ成長できると思いました。自分の可能性を感じることができましたね」

佐藤が10000mで日本トップクラスの証しといえる27分台に初めて突入したのは大学3年生の時で、13年後にも27分41秒84をマークした。通常なら、遅くなってもおかしくない。だが、それを可能にしたのは身体のケアを大切にしてきたことにあるという。

「回復力は明らかに20代より落ちているので、リカバリーについては若い頃よりも工夫しています。身体にかけるお金は出し惜しみしません。治療院に行くだけでなく、自分でも結構高い治療器を購入してケアしています。仮に治療器が100万円だとしても、それ以上稼ぐことができれば収支はプラスになる。毎日使っていたら元は取れますし、それでケガが減れば、継続して良いトレーニングができて結果も出るはずです」

写真=アフロスポーツ
2020年12月4日、第104回日本陸上競技選手権大会・男子10000mに出場した佐藤悠基選手と田澤廉選手(大阪・ヤンマースタジアム長居にて)

「ジョグも1回1回テーマを持たせて走るとやる気が出てくる」

実業団は監督やコーチが練習メニューを組み、チーム全体で朝練習と本練習(主に午後)を行うのが一般的だ。佐藤の場合は自ら練習メニューを考えて、日々実行している。どんなことを意識してトレーニングをしているのだろうか。

「ポイント練習はチームのメニューを見て、なるべく合わせて一緒にやるようにしていますが、それ以外は個人でやっています。朝は完全にフリーですね。自宅周辺を走ることが多いんですけど、冬の早朝は寒いので、日が上がって暖かくなってからしっかりと動かすようにしています。とにかく効率よくいいトレーニングができるように考えてやっています」

個人でのトレーニングはモチベーションを維持するのが簡単ではない。リモートワークが増えて、自宅では仕事に集中できないという人もいるだろう。佐藤はどのように気持ちを高めているのだろうか。

「気持ちが乗らないときは、身体が限界を迎えているときと、単純に気分が乗らないときがあると思います。身体が限界を迎えているときは、身体の声に従い、練習内容を見直して、少しセーブします。気分的なものは走り出してしまうと、そのうち気持ちが乗ってくるので、とにかく練習を始めることを大切にしています」

自分の体と相談して、考えて、よりよい方法を決めて実践する。ビジネスと同じだ。

長距離選手はインターバルなどのスピード練習やレースより少し落としたペースで行う距離走(20~40km)などのポイント練習を週に3回ほど行う。その他は基本、ジョグになるが、佐藤はジョグの“中身”も工夫している。練習に何となくはない。常に目標意識が明確なのだ。

「ジョグも1回1回テーマを持たせて走るとやる気が出てきます。たとえば朝40分走るとして、どんな内容にするのか。速めのジョグ、ビルドアップ、途中だけ少し上げるなど、同じ40分走るとしても内容を変えれば、その効果も違ってきます。その日の体調や次のポイント練習のことを考えて、臨機応変にやっています。いろんなパターンのジョグを持っていると使い分けられる。そこはシューズと一緒ですね」