ナイキだけでなく、中国ブランドなど5モデルのシューズを履き分け

現在、佐藤はシューズに関しては特定のメーカーとあえて契約していない。そのためさまざまなメーカーのシューズを履いて、トレーニングのモチベーションにしているという。ポイント練習で使用するシューズだけでも5モデルほどを使い分けている。

「いろんなシューズを試しているので、どんなシーンで使えるのか履きながら感じとっています。ここにきてナイキ以外もいいシューズを出してきている。いま面白いのは中国のLI-NING(リーニン)ですね。ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%に近い感覚のシューズです。いずれにしても、脚の状態、練習内容、何のレースを目標にしているかで、使用するモデルを変えています」

佐藤は近年、ナイキ厚底シューズを使用してきた。昨年3月の東京マラソンは「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」(以下、ネクスト%)と前足部にエアが搭載されている「エア ズーム アルファフライ ネクスト%」(以下、アルファフライ)と悩んだ末に前者を選んでいる。しかし、今年元日のニューイヤー駅伝はアルファフライを着用。最長4区で9年ぶりの区間賞を獲得した。

「ネクスト%とアルファフライは別物のシューズだと思っています。ネクスト%は誰でも履きこなせる万能シューズ。一方、アルファフライはちょっとクセがあるので、うまく履かないと故障するリスクがあります。でもしっかり履きこなすことができれば、ネクスト%より力を発揮するシューズなのかなと思っています。両モデルで体重のかけ方、フォーム前掲の角度が違います。自分の感覚ですけど、アルファフライ仕様にするトレーニングもしっかりやりました。結構時間をかけてアルファフライを履ける身体を作ってきた感じです」

砂丘を走る男性
写真=iStock.com/stevecoleimages
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ナイキ厚底シューズは世界のメジャーレースを席巻している。2月28日のびわ湖毎日マラソンでも“ナイキ勢”が大活躍。2時間4分56秒の日本記録を打ち立てた鈴木健吾(富士通)がアルファフライで、2時間6分台をマークした土方英和(Honda)、細谷恭平(黒崎播磨)、井上大仁(三菱重工)、小椋裕介(ヤクルト)の4人はネクスト%を着用していた。日本人選手40人がサブテン(2時間10分切り)を果たすなどシューズの影響もあり、レベルが急騰している。

「近年の好記録は間違いなくシューズの恩恵があるでしょう。ただレース当日のパフォーマンスに影響するというよりも、僕自身はトレーニングをしていても疲労がたまりにくくなったことと、従来よりもワンランク上の練習ができるようになったことが大きいと思っています。僕自身も20代の時よりもいいトレーニングができていますから」

「何かやろう」と肩に力を入れない、ルーティンや勝負メシもなし

34歳になってもフィジカル面で成長を感じている佐藤。メンタル面では何を意識しているのだろうか。

「『何かやろう』と思うと、余計なことをしてしまいます。それはレースにとってマイナスになることが多かったので、最近は何もしないことを心がけています。集中力はレース当日になれば自動的にスイッチが入るので、ルーティンもありません。ルーティンをすることで実力を発揮できる部分はあると思うんですけど、そのルーティンができない場面もある。それで力を発揮できないようでは困りますからね。海外レースでは、国内レースのようにはいきません。勝負飯も特にないですし、その場にあるもので、レースにプラスになるものを選んでいます」

大きな舞台では誰もが緊張するものだ。スポーツの世界ではチャレンジャーよりもチャンピオンのほうが重圧は高くなる。長年、追われる立場にいる佐藤は、プレッシャーを跳ねのけるには万全な準備が大切だと力説する。

「自分はやってきたことがすべてだと思うようにしています。やってもいないのに当日力を発揮しようと思っても無理ですから。プレッシャーを感じないようにするには、レースまでの練習をいかにこなすのか。そこだけじゃないでしょうか。若い頃はプレッシャーに負けて、余計なことをしていました。いまは余計なことをしないように自分をコントロールしています」