女性の中に眠っているスキルを活かしたい
とはいえ、理不尽な話が全くない訳ではありません。多くの女性と接するうちに、こんな話が耳に入ってきたこともあったと郷田さん。
昔は、女性が起業のために融資を受けようと銀行に足を運んでも、「旦那さんはどう思っているんですか?」「経営はあなただけで? 男性は入らないんですか?」と言われたという話を耳にしたこともあるそうです。
「今は理解が進んできたので、イヤな思いをする方は減っていると思います。ただ、趣味の延長で事業を考えていた女性が起業相談窓口に行ったところ、窓口にいた高齢の男性に、『こんなふわふわしたもので起業だなんて、君は起業をなめているのか』と言われて、トラウマになったという話は聞きました。いろんな方がいるので、端々でこういう話はあるのかもしれません」
郷田さんが出会う女性起業家は、大きく分けて2種類いるそうです。一つは、デザインやIT技術、不動産関係、飲食など、プロフェッショナルなスキルを活かし、バリバリ働きたいという人。もう一つは、子育てなどの理由から、空き時間に扶養内で稼ぎたいという人。
もっと自分の可能性を広げてもいい
「後者の女性には、『もっと自分の可能性を広げてもいい』と思うことがあります。というのは、素晴らしいスキルもあって、『仕組み化』さえすれば、一人で頑張らなくてももっと事業を大きくできるだろう、という人も多いからなんです」
例えば、手作りの雑貨やお菓子を販売していて、人気が高まった女性。「もっとほしい」という声が増えてくると、自分が頑張って無理をしながら作るか、断るかの二択になってしまうことがあるそうです。
「自分が寝ないで頑張り、疲れ切って事業を止めてしまう人のケースも耳にしたことがあります。でも、下準備や事務作業など、必ずしも自分でやらなくてもいいものを整理して、誰かにお願いするなど、うまく仕組みを作れば、自分の働く時間を増やさなくても事業は拡大できるかもしれません。そのほうが、求めている人のところに広く商品が届くし、本人も自分の時間が確保できます」
北九州市には転勤族も多く、高いスキルがあり、働きたい気持ちはあるのに「会社に勤めても数年で退社となると、迷惑をかけてしまうから」という理由で働けないという女性もたくさんいます。
「そこで、例えば経理ができる人を何人か集め、うちで経理事務の受注を取れば、一人が『子どもが急に熱を出したので休みます』となってもほかの人でカバーできますよね」
また、写真やデザインが得意だったりしても、「企業といくらで交渉すればいいのかわからない」「私ごときのレベルでお金をもらうなんて」と、相場よりも安い料金で仕事を受けたり、そもそも事業化をあきらめたりしている人もいます。例えばSNSを使うのが得意だということも仕事にできますが、それに気づいてない人もいます。
「その一方で、地元の中小企業の中には、もっとホームページを充実させたり、SNSなどを活用して製品のPRをしたいけれど、誰に頼んでいいかわからないという会社がたくさんあります。こうした企業と、スキルを持つ女性たちのマッチングもできたら、お互いにとっていいと思うんですよね」
「自分がしゃべりすぎそうな会議には出ない」
女性が自分のスキルを活かすための情報を積極的に伝えながら、マネジメント業やマッチング業もゆくゆくは考えていきたいと語る郷田さん。今後の展望は?
「自由度高く生きていきたいですね。そして、今後も価値があると思えることに純粋に向き合っていけたら。いま40歳なんですが、年齢が上がってくるとある意味、考え方が固定化してきたところがあると感じているので、停滞しないようにしたいと思っているところです」
心掛けていることとしては、家でも仕事でも、「つい先回りをして言いたくなるたちなので、我慢するようにしている」とか。
「あまり社員の仕事を見すぎない・聞きすぎないようにしたいと思っていて。下手をすると、電話の応対を聞いて、『そこはもっと、こう伝えたほうがいい』とか言いたくなってしまう。でも、それでは言われる方は、監視されているみたいでイヤだろうし、何かあった時に『自分で責任を取ろう』という気持ちもなくなってしまうと思うんです」
さらに、「自分がしゃべりすぎそうだなと思う会議には出ないようにしているんです」とのこと。「いろいろ聞くと『これどういうこと?』ってグリグリ追い詰めちゃう(笑)。特に年下の社員はやりにくいでしょうし、その場にいると言いたくなっちゃうので、出席せず、信頼して任せたいと思っています。まだ修行中ですが」
常にフラットに新しい情報を入れながら、生涯現役でやっていきたいと語る郷田さん。彼女の存在によって、今後も地域の女性活躍の場が広がっていきそうです。