金融危機後「賃金低下」を徹底的に放置して

次に実質賃金を見てみましょう(図表7)。一番伸びているのはエストニアで275.9。日本を除くと一番伸びていないのはポルトガルで104.6。日本は101.3で最下位。なお、日本は18年に賃金の計算方法を変えて思いっきり賃金をかさ上げしましたが〔詳細は拙著『国家の統計破壊』(集英社インターナショナル)参照〕、それでもこの状況です。

諸外国では、負担も増えると同時に、その前提となる負担能力も同時に上がっていると言えるでしょう。だから特に名目賃金において、日本よりはるかに賃金上昇率が高いのです。税金も社会保険料も、賃金はその源泉の一つですから、高齢化に伴い社会保障費が増えるのは仕方がないにしても、賃金を増やして負担能力も上げなければいけません。

明石順平『キリギリスの年金 統計が示す私たちの現実』(朝日新書)

しかし、日本は、バブル崩壊の後遺症で1997年11月から発生した金融危機以後、非正規雇用の増大や、残業代を払わなくてよい法の抜け穴の設置、サービス残業等を野放しにし、賃金が下がっていくことを徹底的に放置しました。つまり、負担能力を上げることをしなかったのです。この状態で増税や社会保険料負担の増大をしようとすれば反発されるのは当然でしょう。

賃金の低迷は当然経済にも影響します。日本のGDPの約6割を占めるのは国内消費であり、消費の源泉が賃金だからです。賃金下降を野放しにしたことがこの国の低迷の一因だと私は考えます。

ところが、その原因を見誤り、「とにかく物価を上げれば何とかなる」という発想の下に実施された経済政策があります。それがアベノミクスです。

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