「だれかのため」「ターゲットのため」ではなく、服に切実な課題を抱える6名を開発の起点として、それぞれに対して「ひとりのため=オールフォーワン(041)」の服づくりを行うことになりました。

その「ひとり」のうちのひとりが、関根彩香さん。脊椎損傷によって12歳から車イス生活をしています。車イスを使いはじめてから、ほとんどスカートをはかなくなったそうです。「着脱しづらいし、車輪に巻き込んでしまう可能性がある」から。「オシャレをしたい」とたまにスカートを買ってみても、結局着られないまま「友人に譲ることを繰り返していた」と言います。

通常業務の合間をぬって開発は進みました。試作品ができては関根さんにはいてもらい、意見を聞いてまた改良する。このサイクルを何度も丁寧に重ねました。まるで、オートクチュールで一点もののスーツを仕立てているかのように。

「機能的でかわいい」アイテムが誕生

半年を経て出来上がったのが「フレアにもタイトにもなるスカート」です。

前身頃はプリーツスカート、後身頃がゆったりとヒップにフィットしたタイトスカートになっていて、「プリーツ1つひとつ」にファスナーがついています。

なにがすごいって、このファスナーを閉じるとスカートがタイトに、開くとフレアになる。「1着1枚で二度おいしい」みたいなこの洋服は、タイトにしておけば移動中、車イスの車輪に巻き込まれる心配もありません。人と会う場面ではファスナーを開いてフレアにすれば、ちょっと華やかなイメージになります。つまり、シーンによって表情を変えられる、まったく新しいスカートが誕生したんです。

また、筋ジストロフィーという病気で思うように身体を動かせない真心ちゃんという女の子がいました。

彼女の課題は、「口の周りの筋力が弱く、どうしてもよだれがたれてしまう」こと。でも、よだれが出るからといって赤ちゃん用のスタイをつけるのは、8歳の女の子にとってはいささか恥ずかしいことです。

写真提供=ユナイテッドアローズ
スタイにもなるエプロンドレス

その課題を解決するためにユナイテッドアローズが用意したのは、「スタイにもなるエプロンドレス」。

つまり、「一見するとドレスに見えるスタイ」という逆転の発想でした。

たったひとりのニーズが、新しい「美」を生み出した

当事者が喜んでくれたのはもちろんのこと。では企業の商品として見たときのお客様の反応はどうだったか。

うれしかったのは、「スタイにもなるエプロンドレス」の当事者だった女の子のお母さんが「(健常児の)お姉ちゃんが着てもかわいい」と言ってくれたこと。また、「フレアにもタイトにもなるスカート」も、すこしズラして着用すると、片方はプリーツで、もう片方は曲線的になり、アシンメトリー(左右非対称)を表現できることから、新しい着こなしができるアイテムとしてプロ受けする商品となりました。