ADHDの人は、いつも同じバッグを使用することが多い

仮屋医師が、「ADHDの人」をイラストにしてくれた。かなり大きいバッグを一つ持っていて、その中にジュースや傘、領収書、保険証などさまざなものを詰め込んでいる。ADHDの人は、いつも同じバッグを使用することが多い。同じところに置いておかないと、物がなくなってしまうからだ。

イラスト=仮屋暢聡医師
ADHDの女性のイメージ図

「“記憶の外在化”と僕は言っているんです。頭の中で整理ができないですから、かばんの中に“自分の分身”を入れるんです。首から鍵や携帯を下げるなど、身に付けることもありますね。それで他のところは構わない。左と右の靴下の色が違ったり、靴下に穴があいていたり、季節外れの洋服を着ていたり……などとということもよくあります」

30分以上、「お金がない」と探し続けていたが…

再びSさん。30分以上、「お金がない」と探し続けている。

Sさんが平出さんにたどたどしく説明する。

「25万、銀行からおろしたのですが……」

平出さんが「いつも持ち歩いているカバンに入れたんですか?」と尋ねる。Sさんは「うーーん、うーん、うーん」と泣きそうになりながら、ベッドの上の物をばさんばさんと落としていく。「そこにはないのでは?」と平出さんや私が声をかけるのだが、聞いてもらえない。

私はカバンから取りだしたむきだしの12万円が、またなくなってしまうのではないかと、気になって仕方がない。何度も「しまってください」と声をかけるのだが、Sさんの頭の中は25万円でいっぱいのようだった。

「あったーーーーーーー!」

部屋の片隅にあった、いつもと違うカバンの中に封筒があった。中身はたしかに25万円。