世界大不況の引き金を引いたリーマン・ショックから1年が経った。沈没する企業が続出する一方、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス など金融猛禽類たちは即、復活を果たしている。両者を分けたものは何だったのか? 国際経済小説の第一人者が、その内実をレポートする──。

ファルドCEOは当時60歳。元々はコマーシャル・ペーパーのトレーダーである。トレーダー出身の投資銀行のトップは、普通、トレーディング・フロアーにしょっちゅう顔を出すが、彼は、毎朝運転手付きの車で出勤すると、専用のエレベーターで31階にある風呂と会議室付きの社長室に直行し、3階や4階にあるトレーディング・フロアーには姿を見せることは決してなかった。

このあたりは、葉巻をくゆらせながら熊のようにトレーディング・フロアーを歩き回り、自らも売り買いを執行していたソロモン・ブラザーズの元CEOジョン・グッドフレンドなどとまったく違っている。

ファルド氏に自己資本増強などを求めたポールソン財務長官(当時)だったが、交渉は不調に終わった。(写真=AP Images、PANA)
ファルド氏に自己資本増強などを求めたポールソン財務長官(当時)だったが、交渉は不調に終わった。(写真=AP Images、PANA)

一方、CDO(債務担保証券)やデリバティブであるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などの金融商品の仕組みやリスク、および金融市場の構造は2000年前後から急速に複雑化し、単純なコマーシャル・ペーパーのトレーダーだったファルドは、現場から離れた象牙の塔にこもったことで、市場に置き去りにされた。