世界大不況の引き金を引いたリーマン・ショックから1年が経った。沈没する企業が続出する一方、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス など金融猛禽類たちは即、復活を果たしている。両者を分けたものは何だったのか? 国際経済小説の第一人者が、その内実をレポートする──。
ダイモンはまた、ウォール街の投資銀行にありがちな、複雑な金融技術を駆使できる自分たちが「マスター・オブ・ユニバース(世界の支配者)」であるという奢りを排し、銀行業は単に一つのビジネスの形態にすぎず、顧客の望む物を提供し、会社の状態をきちんとバランスシートに反映させなくてはならないという考え方を徹底した。
2006年の初頭から住宅ローン市場に影を差すデータがぽつぽつ現れ始めると、ダイモンは、不動産証券化部門のトップや審査部門と議論を重ねた末、住宅ローンの貸し出し基準を厳しくし、融資額を減らすよう命じた。
その時点では、他の金融機関は、住宅ローンに積極的だったので、他行からCDSを買ってリスク・ヘッジに努めた。同行に積極的にCDSを売っていたのが、今回の負け組の一角であるメリルリンチだった。
ダイモンらは、問題が住宅ローンだけでは済まず、LBOローンやその他の分野にも悪影響が及び、経済全体が下降すると見て取ると、トレーダーたちに命じて、株をカラ売りし、企業や住宅ローンのデフォルトが増加したときに利益を上げられるデリバティブ契約を結び、長期金利が上昇するほうに賭ける取引を行う等の「マクロエコノミック・ヘッジ」を行った。
彼らの動きに続いたのが、勝ち組に名を連ねるゴールドマン・サックス、クレディ・スイス、HSBC、ドイツ銀行などである。
ダイモンの優れた経営判断により、JPモルガン・チェースは、損失を最小限に食い止め、2008年に入って準大手投資銀行のベアー・スターンズが経営危機に陥ると、これを買収した。同行は、2009年前半の純利益が48億6200万ドルに達する好調ぶりである。もしダイモンがリーマンのトップだったら、リーマンは潰れなかったはずだ。