新型コロナウイルスが細胞に侵入する際に目印にしているACE2という分子は、ほとんど全ての組織で発現していて、特に血管、消化管、呼吸器などに多く存在しています。嗅覚異常や味覚異常が頻発することから予想されたように、神経細胞や脳にもACE2の発現が認められています(6)。さらに新型コロナウイルスは、血管から脳に侵入すること(7)、神経細胞に感染することが確認されています(8)

後遺症が起こるメカニズムの一例として、嗅覚異常についてみてみます(9)。嗅覚異常は、新型コロナの後遺症では、特によくみられるものです。イランからの報告では(10)、匂いの識別テストを実施したところ、新型コロナ患者の96%に何らかの嗅覚異常があり、18%が全く匂いを感じなくなっていたということです。

「すべてのものが腐ったような臭い」

嗅覚異常が起こる原因については、これまでの研究から、嗅覚神経に直接ウイルスが感染するのではなく、神経細胞を支えている細胞がウイルス感染により傷害を受けることによると考えられています(11)

さらに血中のインターロイキン6という炎症マーカーが上昇するのと同時に、嗅覚異常が起こることが報告されていることから(12)、嗅覚神経の周辺にウイルスが感染して、それに対して炎症が起こり、嗅覚神経を傷つけてしまうこともあるようです。

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嗅覚神経周辺の傷害の度合いによって、症状も違ってきます。傷害が修復されると、嗅覚異常も改善されます。これまでの報告では、嗅覚異常があった新型コロナの患者さんのうち、70~90%は数週間から1カ月程度で回復しています(13、14)

一方、一部の方では、嗅覚がすぐには回復せずに、長い時間かかる場合もあります。これは、嗅覚神経の傷害度合いが高かったためと思われます。

この場合、回復のためには嗅覚神経の再生と再配線が必要となります。再配線がうまくいかないと、同じ匂いが昔と違って感じたり、特定の匂いが感じにくくなったりします。なかには「すべてのものが腐ったような臭いがする」と訴える方もいます。

さらに嗅覚神経が死滅してしまうこともあるようで、その場合は匂いを感じることができなくなってしまいます。嗅覚がなくなると、腐敗した食べ物や煙の臭いを感知できなくなり、食中毒や火事に遭遇するリスクが高くなります。

また、食べ物の味は味覚と嗅覚で感じるため、嗅覚がなくなるとおいしさを感じなくなり、食欲を失うことになります。食欲は人間にとって重要な欲求で、これがなくなることによりうつ病になるリスクが上がるといわれています。