いま大阪で起きていること

国や本庁からくる現場への指示には、昨日までこのやり方でよかったのに、今日からはこのやり方に変えないといけないというケースもある。多い時には本庁からくる10~20本のメールにも目を通して対応に答えないといけない。

コロナへの対応は無論、皆が初めての経験であることに鑑みると、多少の混乱は想像の範疇を超えないが、こうした現場の負担は、上の「鶴の一声」によって左右されることが非常に多い。

「吉村(大阪府)知事が毎日のようにテレビに出て、まだ決まっていないことや現場に情報が行き届いていないことなども発言していたため、それに関する問い合わせも多かった」(小松さん)

不満のはけ口になっている現場には、「PCR検査がどうして受けられないのか」「大阪市の対応はどうなっているんだ」「コロナ病棟なんて建てるな」という問い合わせがひっきりなしにやってきた。

「イソジン発言」などによるクレームさえも保健所にやってくるという。

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一方、忙しい保健師は、テレビを見る時間すらなく、ニュースをその電話で知ることもしばしば。そのため深夜、帰路で乗る電車では、その日にどんなニュースが流れたのか、翌日の電話対応のためにネットニュースですべてチェックしているのだそうだ。

逼迫する現場。人が足りないと声を上げ、なされた対応は「派遣社員」の投入だった。これに対し保健師は「パフォーマンスだ」と断罪する。

「もちろん役に立っていることもあるが、彼らに専門的なことをさせるわけにはいかない。現場は仕事を教える時間すらありません」(前出保健師)

さらには今秋、顧客サービスが徹底している大企業の社員の能力を生かして保健所業務をフォローアップする体制をつくるべく、コロナの影響で苦境が続いている航空会社などと業務提携を検討する案が浮上。現場は呆れかえったという。

保健師に専門的な知識が必要であるという現実を、「上」はあまりにも知らなすぎるのだ。

逼迫の根源

大阪府には2012年、橋下大阪市長(松井府知事)時代に「職員基本条例」ができた。
同条例では、職員を5段階で相対評価することとあわせて、職員数の管理目標を5年ごとに決定するということを決定。この計画に沿って府は職員を減らしていった。

さらに大阪府は、職員の絶対数も決まっているため、保健師を増やすのならばどこか別の職員を削らねばならない。それがゆえに現場の職員がすぐに増やせない状況にあるのだという。

「人口10万人当たりの職員数が一番少ないのが大阪(※)。"日本一スリム"を「功績」として謳ってしまっている中、現場の職員たちはこうして過酷な環境に晒されているんです」(小松さん)

※筆者註:府の職員基本条例に基づく職員数管理目標の対象範囲(一般行政部門+学校以外の教育部門+公営企業等会計部門)(12月26日20時30分追記)

コロナウイルス感染拡大初期、吉村知事が「仕事や判断が速い」と国民から評価される中、それに翻弄されていた現場。

「昨日常識だったことが今日非常識になる。結局現場を何も分かっていない。現場にも一度も見に来たことがない」と訴える。