コロナ第3波が始まった11月、母の認知機能が急激に低下した

第3波が始まった11月。さらに追い打ちをかけるような出来事が起こる。

母親が「お腹が痛い」と訴え始めたのだ。清水さんは心配し、母親と同じ部屋で眠っていたが、夜中に何度も起こされ、早朝に嘔吐で目が覚めた。

「これはまずい」と思った清水さんは、息子を施設に預けると、母親を連れて病院へ。母親は脾臓が腫れて、炎症を起こしていた。血液検査の結果も良くないため、そのまま入院に。医師には、「2週間ほどで退院できる」と言われたが、その3日後、突然母親の意識がなくなり、別の病院へ転送。さまざまな検査をしたが異常は認められず、夜には元の病院へ戻った。

医師によると、症状は安定したが、認知機能の急激な低下が見られているとのこと。現在も予断を許さない状況だ。

子育てと複数人の介護を同時に担当する辛さ……

清水さんの息子は22歳になった。現在も、朝晩の歯磨きと入浴は清水さんが全介助し、食事と服の着替えは一応自分でできるが、食事は手づかみで、服は前後ろや裏表になっていることが多い。

「息子は今でも大きな建物に入るのが嫌で、入ると大絶叫します。食べられるものがすごく限られていて、好きなものでもパッケージや味がリニューアルすると、途端に食べなくなってしまいます。睡眠もまとまらず、夜中や早朝に起きてしまうこともしばしばです」

息子は現在、障害者福祉施設に通っている。軽度の障害者は簡単な作業を行うが、障害が重い息子は作業量が少なく、主にレクリエーションをしてお昼ご飯を食べ、掃除をして帰ってくる。

機嫌よく通ってくれる間はいいが、夏に大好きな水遊びが中止になると、機嫌が悪くなり、2カ月ほど通ってくれなかった。

一方、夫は回復傾向とはいえ、うつ病で心療内科に通院を継続。現在は国家資格取得を目指して勉強中だ。

「息子が小さかった頃、夫は仕事で朝から晩までいなくて基本私のワンオペ。肉体的にも精神的に参っていた私は、夫を気遣うこともできず、会話もありませんでした。障害のある子の親御さんは離婚率が高いのですが、うちはよく離婚しなかったなと思います」

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お笑いコンビU字工事の漫才…私が笑うと、息子の精神も安定

養護学校でできたママ友とは、現在も、同じ悩みを共有してきた戦友のような仲だ。

「ママ友とよく、『私が倒れたらどうなるんだろう?』っていう話をしているんです。みんな、障害のある子どもに頼れないことはわかっているので、『最悪みんなで一緒に住まない?』って話してます」

睡眠障害や軽い鬱を患っているとはいえ、清水さんから感じられる明るさやおおらかさは、長い間苦労や不安を経験し、その時々に自分で考え、解決や納得をしてきたからこそ得られた賜物のように思う。

「息子はテレビがついているとすぐに消してしまうのですが、15~16年ほど前に偶然お笑いコンビ・U字工事の漫才を見て笑ったところ、息子もつられて笑い、それからはお笑い番組は見るようになりました。私が笑うと息子も笑い、息子の精神も安定しました。彼らには感謝しています。当時は笑うことを忘れるほど辛かったけれど、今は、めったにできない経験をしてきたからこそ、ちょっとやそっとじゃ動じない落ち着きや、人間としての深みが得られたのかなと思えるようになりました」

そんな清水さんの癒やしは、息子が7歳のときに持ち帰ってきた金魚から始まった、淡水魚と海水魚の飼育だ。水換えが大変だが、やり終えると気持ちがスカッとするという。

「今は、気になることがあったらインターネットで調べることができますが、私が息子を生んだときは、まだパソコンもスマホも普及していませんでした。最近、『うちの息子の小さい頃の話を書いたら、今のお母さんたちの助けになるのでは?』と思い、ブログを始めました。私のように育児で悩んでいるお母さんがいたら、『大丈夫よ』と声をかけてあげたくて……。徐々に療育制度が整いつつあるので、お子さんに必要とされる分野の療育を、躊躇せず、1日も早く受けさせることが大切だと思います」