抽象的な「平等」にしか興味がないリベラル層の欺瞞

【藤井】もう一つ問題だと思うのは、リベラルの形式主義的な面です。そもそもリベラルの前提とする人間観はきわめて抽象的で形式的です。権利は法律で保障します、公の場所での言葉を規制します、といっても、それは形式にすぎない。

中村淳彦、藤井達夫『日本が壊れる前に 「貧困」の現場から見えるネオリベの構造』(亜紀書房)

現実に手を付けるということは、社会の構造を変える必要が出てきます。それは大変なので、せめて言葉だけでもというわけです。

リベラルのいう正義を実現しようとするなら、資本主義の問題、すなわち、この場合だと身体や労働の商品化の問題に踏み込まざるを得ない。しかし、近代に生まれたリベラルにはそれはできないと思いますよ。リベラルと資本主義は血縁関係にありますから。

【中村】リベラル層のいう平等とは、あくまで形式上の平等ってことですね。

【藤井】形式上の平等さえ法律でつくっておけば、実際がどうなっていようが無関心、放置しちゃう。それは欺瞞だと一九世紀のマルクス以降、ずっと非難されていますね。

マルクスの『ユダヤ人問題によせて』なんかは、リベラリズムのそうした形式主義を徹底的に批判していて、今読んでも痛快ですよ。

フェミニストや人権派が貧困女性を追いつめている

【中村】岡村発言はリベラル層が岡村を集団リンチして、風俗関係者や底辺層の女性たちは現実をわかっているのでスルーかフォローした。当事者としては、まったくそのとおりだという話で。風俗に従事するのは現実に貧しい人であって、そこで追求されるのは目先の利益だけ。

だから、岡村みたいにお金を落としてくれる人は、それだけでいいんだという発想が根底にある。丸く収まっていたその再分配機能を、先ほどの承認欲求を求めるリベラル層が正論で妨害したみたいな状況でしたね。

【藤井】なるほど。それにしても、中村さんは承認欲求には手厳しい(笑)。

【中村】リベラル層や女性団体、人権派の人たちは女性の人権を守ろうと言うけれど、上流階級である彼らの言うとおりの社会になってしまったら、結果、彼女たちの人生はボロボロになってしまう。

認めてもらった価値が否定されて、賃金が減るわけですから。そうすると、もっと危険だったり、搾取の激しい違法な領域に流れてしまう。また、北関東みたいにお母さんたちの売春に姿を変えるかもしれない。そういうことがずっと繰り返されている。言葉だけで、現実はまったく動いていない。

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