「母を引き取れません、お金も出せません」親を病院に捨てる人々

また今回のコロナ第3波では、「医師看護師の集団辞職」や「ICU(集中治療室)を整備したのに看護師が確保できない」といった医療関係者のマンパワー不足の報道が目立つ。

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看護師の退職理由としては「精神論だけでは限界」「医療関係者が差別される」などと報じられている。筆者もその指摘は間違いではないと思うが、それ以上に、結果的に看護師にしわ寄せがいってしまう背景には「日本社会が見て見ぬふりをしてきた高齢者終末期の医療問題のツケ」があるのではないか。

これはコロナに限った話ではない。

高齢者が感染症などで長期入院すると、たとえ治っても足腰が弱くなったり認知症が進行したりして要介護状態になる確率が高い。肺炎で救急車搬送された高齢患者について、駆け付けた家族に「できる限りの治療を」と言われれば、病院関係者は人工呼吸器や高額医薬品を投入して一生懸命治療するだろう。ところが、数週間後、肺炎そのものは軽快したので退院させようとすると……。

その息子や娘は親を助けてと哀願した顔と別なものに豹変しているということがある。

「ウチ狭いんで引き取れません」
「子どもの教育費で手一杯でお金(治療費)出せません」

「命は有限」理解しない人々に責められて疲れて果てた医療現場

信じられないことに病気が治った親の引き取りを拒否するといったケースが少なくないのだ。しかも、こんなふうにモンスタークレーマーのような物言いをすることもある。

「あんなに元気だった母が車椅子なんて……。これは医療ミスでは?」
「こんな結果なら治療してほしくなかったよ」

命を救った医療関係者の気持ちを無碍にするセリフを吐くだけでなく、その後は、電話に出なくなることも非常に多い。そういう事例が決して稀ではないのだ。

困り果てた病院関係者は、本来、そんな作業をする必要はないのだが、預かってくれる施設を探す羽目になる。しかしただでさえ介護施設は不足しており、元コロナ患者を受け入れてくれるところを探すなんて「砂場で砂金を探す」レベルだ。

12月頭に看護師の集団辞職が報道された大阪市内の病院は、ECMO(体外式膜型人工肺)が整備されているような最重症例を扱う高度医療機関ではなく、主に軽~中症例を扱っていた。ある県の感染症アドバイザーを務める医大教授は12月3日のNHKニュース内で「最終目標は亡くなる人をゼロにすることで、そのためにも感染者数を最小限にするんだと肝に命じてほしい」と人材不足の現場にあえて檄を飛ばしていた。

コロナ患者が死亡すると、こうした権威のある医者に叱られ、生きて退院させようとすると「元の(元気な)状態じゃない!」と家族にイヤミを言われ……現場の医療関係者は「人が老いることも命が有限であることもわかろうとしない」人々に責められて、すっかり疲れてしまったのだろうと推測している。