もし人生をやり直せるとしたら、いつ、どの地点に戻りたいか
断酒から4年以上経ち、酒を飲みたいと思うことも少なくなった。体調や精神が安定し、飲んでいたときより私生活も仕事も楽しめるようになった。以前よりも充実している。人付き合いは減ったが、もともと大人数の場は苦手であり、緊張感をやわらげて陽気に振る舞うために酒を飲んでいた節があったのだから、やめたならばやめたで必要な時や、自分が楽しめそうな時以外は、そういった場を避ければいいだけのことだ。たぶんこれから、さらにもっとよくなるはずである。酒のことなんて完全に忘れて、楽しい人生を歩んでいく。おそらくはきっと……。
一方で、ふとした瞬間、こんなことを考えてしまうことがある。
もし人生をやり直せるとしたら、いつ、どの地点に戻りたいか。
大学生に戻って、もう一度モラトリアムを楽しむか。受験生に戻って、もっと頭の良い大学を目指すか。部活動に熱中した中学生時代に戻るか。はたまたいっそのこと、母の胎内から出てきた、あの輝かしい瞬間からやり直すか。なかなか答えが出ない。どの段階に戻っても、結局はぼくの人生なのだから、結果は同じだろうとも感じる。
もちろん、それも本音ではあるのだが、ここでぼくは正直に告白したいと思う。ぼくにはできることならば戻りたい地点が、一つだけ存在するのだ。
酒の魔力を覚える前の人生に戻ることができたなら
今でもちょっとしたことがきっかけであの酩酊感や全能感への誘惑が襲ってくることがある。もう4年以上もやめたのだから、今度は酒とうまく付き合えるのではないか。いや、一度でも依存症になると、もとの酒飲みには戻れないと聞く。とくにぼくなんて、きっと駄目に違いない。だいたい、一度目の急性膵炎の後だってそうだったではないか。今飲んだら、また同じことの繰り返しだろう。
でも、とぼくは思う。
でも、もし酒の魔力を覚える前の人生に戻ることができたなら、今度はあんなヘマは絶対にしないのに。アルコール依存症にならない程度のほどほどをわきまえて楽しむことが、ぼくにはできるはずなのに。それがいつのことなのか正確な線は引くことができないけど、「その地点」に戻ることさえできれば、今度こそは必ず。絶対に。