わからないことを具体化して思考の負荷を減らす

ここで、先ほどの英文を再度見てみましょう。

“Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.”

多くの人にとってなかなか読むのが難しいであろうこちらの文ですが、それではいったい何がわからないからこの文章がわからないのでしょうか? 逆に、自分はどこまでこの文章についてわかっているのでしょうか?

これを「自分はこの英文の○○という箇所がわからないから意味がわかっていないのである」と滞りなく言語化できる人は、やはり少ないでしょう。もちろん、「単語がわからないから」「文法がわからないから」くらいのレベルではいけません。それではあまりにも目的があいまいすぎます。

「思考」というものはあくまで思索という運動、手段でしかありません。わからないことを把握しないままで思考に入るのは、目的地もあいまいなままに走り出すようなもので、「夕日に向かって走り出せ!」と言われているのと変わりません。目的が散歩でしかないのであればいいのですが、たどり着きたい目的地があるのであれば、きちんとルートを定めてから歩き出す必要があります。

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「思考」というものはあくまで情報整理にすぎず、なんでもかんでも思考任せにしてはいけないわけです。むしろ、うまく考えるためには、思考の負荷を減らしてやる必要があります。例えば、「この文章の主語と動詞がどれなのかわからない」といったように具体化することです。これならば調べる方法はあります。

どこから手を付けていいのかわからないから難解に見える

英文の理解には、最低でもその文章の主語と述語を理解することが必須となります。例文は一見して「主語と述語を把握しにくい」文章でした。だからこそ、どこから手を付けていいのかわからない、難解な文章になってしまったわけです。逆に言えば、これは主語と述語の位置さえわかれば、そこをヒントにしてたどっていくことができます。

そして、主語と述語は通常品詞が異なります。前者は名詞句が、後者は動詞句がそれぞれあてられますが、例文には一種類の単語“buffalo”という語しかありませんでした。ここまでくれば「“buffalo”には名詞と動詞、両方の用法があるのかもしれない」と思い当たることができます。

ここから“buffalo”について調べれば、例文には「バッファロー市(地名)」と「バッファロー(動物)」と「いじめる(動詞“buffalo”の意味)」という三種類の“buffalo”が使われていたという事実にたどり着くことができます。ここまで来たら「バッファロー市のバッファローがいじめるバッファロー市のバッファローは、バッファロー市のバッファローをいじめる」(=バッファロー市のバッファローはバッファロー市のバッファローにいじめられているが、バッファロー市のバッファローをいじめている)というように訳出できるでしょう。