株式バブルが崩壊すれば日銀債務超過・円安という悪夢

では何がその契機となり得るのか。目下のところ、わが国では、地価が全国レベルで目立って上昇しているわけではなく、消費者物価も足許は伸びを低めており、インフレが懸念される状態にはおよそない。こうしたなか、懸念されるのは、昨今の株式市場の過熱状態であろう。

コロナ危機でわが国をはじめとする実体経済が相当な打撃を受けているのとは裏腹に、各国の株式市況は高値の更新が続くなど足許は堅調そのものだ。そこにはおそらく、上述のように地価を例に説明したのと同様のメカニズムで、各国の中央銀行の供給した過剰流動性が流入し、相場を押し上げているであろうことは想像に難くない。その株式市場が今後いずれかの時点で変調に見舞われた際、もっとも深刻な打撃を被るのは、主要中銀の中で唯一、リスク性資産であるETFを、しかも巨額な規模で買い入れている日銀であろう。

株式市況の調整の幅と期間次第では、日銀が一気に債務超過に転落し、その状態が長引く可能性も否定できない。それが円の信認の喪失につながったとき、おそらく、大幅な円安が進展し、円安に起因する高インフレが加速することになる。その時、日銀はもはや、政策金利を引き上げて自国通貨を防衛し、インフレを制御する能力を持ち合わせていないことがあからさまになるのだ。

河村小百合『中央銀行の危険な賭け 異次元緩和と日本の行方』(朝陽会)

MMT理論の危険な落とし穴は、財政運営の大幅な拡張に伴うこうした中銀の先行きの金融政策運営の遂行能力の問題に正面から向き合わず、何らの解決策も提示してはいない点にある。それはまた、いわゆる“リフレ派”の考え方に共通する問題点でもある。

そして現在の日銀には、金融政策決定会合において、出口戦略やその局面での国民による財政負担の可能性、先行きの金融政策運営の遂行能力の問題を検討している形跡が一切認められない。対外的な説明もおよそ行われていない。にもかかわらず、黒田総裁はじめ日銀関係者がMMT理論を批判する側に回っていることには強い違和感を禁じ得ない。

海外の主要中央銀行は、金融危機後に大規模な資産買い入れを実施してきたなかで、上記に見たような危険な事態に至るようなことが決してないように、様々な工夫を重ね、大規模な金融緩和からの出口も見据えて極めて慎重な政策運営を行ってきた。その詳細は次回、みることにしたい。

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