物価上昇率が政策金利を大きく上回ったら

仮に物価上昇率が、中央銀行の政策金利(当座預金への付利の水準)を大きく上回るような事態になってしまった場合に何が起こるのか、

単純化のために、価格が比較的大きく変動することが多い地価を例に考えてみよう。例えば当座預金への付利が2%でしかないときに、全国の地価の上昇率が前年比10%を超えるようになってしまったと想定する。民間銀行にはおそらく、不動産業者からの借入れの申し込みが殺到するだろう。地価が年率10%で上昇し続けるなかで、不動産業者が民間銀行から仮に3%の金利で借り入れできるのなら、その資金を元手に土地を仕入れておき、1年後に1割増しの価格で売却できれば、不動産業者としては確実に7%相当のサヤが抜け、儲けることができる。

民間銀行としても、そうした貸出しの申し込みが次々と寄せられるのであれば、余り金を中央銀行の当座預金に2%の金利で預けっぱなしにするのはやめて引き出し、それを3%の金利で不動産業者等に貸し出せばもっと儲けられるので、中央銀行に預けていた当座預金は次々と引き出され、市中向けの貸出しを加速することになるであろう。

このように、その時々の経済・金融情勢に応じて適切な金融政策運営ができなければ、本来、物価の中長期的な安定が使命であるはずの中央銀行が先々のインフレを抑制するどころか、逆に“火に油を注ぐ”事態に陥るのである。

ちなみに先述の英国の事例をもう少し詳しくみると、健全財政志向の極めて強い同国は、金融危機の震源国の一つであったにもかかわらず、国民の負担増も辞さない財政再建策を講じてきていた。そしてBOEも一時は0.75%まで政策金利を問題なく引き上げることができていたがゆえに、“Brexit”の国民投票後も国内からの大規模な資金流出は起こらず、為替や物価も何とかオーバーシュートせずに済んだものとみられる。

わが国の場合、今後、もっとも懸念されるのは外国為替相場の動向だ。何よりもまず、財政事情が世界最悪と極端に悪い。加えて日銀が国債やETF等を古今東西他におよそ例がないほどの規模で買い入れ、恐ろしいまでのリスクを抱え込んでいる。この先、何らかの契機でそうした問題点があらわになれば、円があっという間に“通貨の信認”を失い、大幅な円安が進展して、国内債務調整が差し迫っていることを察知した富裕層や企業による国内からの大規模な資金流出が発生しかねない。