牛肉の温室効果ガス排出量は鶏肉の10倍
畜産業界の中でも温室効果ガスを圧倒的に出しているのが牛肉の生産だ。119の国、38万7000件の農場を対象に行われた大規模な調査を基にした2018年6月の米『サイエンス』誌の記事によると、牛肉は1キロあたり60キロもの温室効果ガスを排出しているという。これは豚肉の9倍、鶏肉の10倍であり、2位にランクインする羊肉の2.5倍である。同じタンパク源である植物性の豆と比べたら60倍だ。
なぜこれほど高いかというと、家畜の飼料である穀物の生産過程で排出される温室効果ガスに加え、牛や羊などが生きているだけで排出するメタン(温室効果ガスの一種)によるところが大きい。
しかも、畜産業が環境に与える影響は温室効果ガスだけではない。水と土地の問題もある。ハンバーガーひとつ作るのにおよそ2400リットルの淡水が使用され、肉・乳製品・卵・養魚の生産に世界の農地の8割以上が使われている。
この非効率極まりないシステムを維持する代償として、アマゾンをはじめ世界中で大規模な森林破壊が起こり、結果として多くの野生動物たちが絶滅に追い込まれている。これはひとえに、肉をたくさん食べたいから、という私たち消費者が作り上げてきた構造だ。
先に挙げたイギリスのサッカーチームはそれを強く意識し、選手の食事はもちろん、スタジアムで提供するフードもすべてヴィーガンに徹底している。菜食主義は環境問題に対する個人レベルでの最大のカウンターアクションだといえるだろう。
菜食主義は個人ができる最大の“サステナブルアクション”
そのような中で、私が思い出すのは去年ニューヨークで開催された気候変動対策を議論する国連気候行動サミットに日本代表として出席した小泉進次郎環境相が、現地滞在中にステーキ店へ行ったばかりか報道陣に「毎日でもステーキが食べたい」とうれしそうに語っていたことだ。問題は彼がステーキ好きなことではない。気候変動対策を話し合う場に参加する国の代表である人間が、公にこのような行動・言動をしたことである。
「国中の家畜を現時点から半分に減らす」という大胆な気候変動対策を発表したオランダ政府と、和牛券を配ろうとしていた日本政府。オランダのこの対策は国中の農家の反感を買い、トラクターによる大規模なデモで1000kmにわたる史上最大の渋滞を引き起こしたが、それくらいのことをやらないと気候変動と戦っていることにならないという政府の気概が感じられる。国の規模の違いはあれど、日本政府にはもう少し環境問題に意識的になってほしいと願う。
そもそも一般的な日本人にとって、菜食主義者のイメージはどういったものだろうか。気難しい・めんどくさそう・変な人……などであれば、その考えは一度平成に置いてきて、世界で今なぜ菜食主義者が増えているのかを思い出してほしい。菜食主義は個人ができる最大の“サステナブルアクション”だ。しかし同時に世界のトレンドであり、カルチャーとしての人気も高い。
代替ミルクのパッケージデザインの多くは写真に撮りたくなるほどおしゃれだし、無意識に「これを選ぶのはカッコいい」というメッセージを受け取ってしまう。周囲でヴィーガンやベジタリアンが増えているのを見て、自分も少し試してみようかなという気になるのは、流行を追う感覚にほかならない。