子どもが危険なときも、しらんぷりをする世の中
「僕が今一番の問題と思っているのがそこで、下手に子どもに声をかけるとトラブルのもとになるんじゃないかと大人が怖がってしまって、子どもに声をかける大人がいなくなってしまいましたよね。
同調圧力と言いますか、社会全体に“世間の目”を意識させるような価値観がはびこっていて、『知らない人と話しちゃいけません』がどんどん拡大していった結果、大人も子どもも互いにしらんぷりするさみしい世の中になってしまいました。
しらんぷりが習慣化した結果、本当に子どもが危ない目に遭いそうになったときですら、大人が見て見ぬふりをしてしまう。すると、地域の大人の見守りがなくなった子どもたちは、自分で自分の身を守るしかない。結局、最も被害を被るのは子どもなのです。
町を自由に遊び回る子どもたちを地域の大人がおおらかな目で見守り、ときに彼らの話を聞いてあげる相談役になる。道くさで得られるもっともすばらしい点は、大人と子どもの信頼関係がもたらす、町の柔らかい空気ではないでしょうか」
「人生そのものが道くさみたいな感じ」
水月さんのお話を聞いていると、「柔らかい」という言葉がしばしば出てくる。そもそも水月さんの道くさという研究自体が誰にでもとっつきやすく、柔らかな発想に溢れている。
「道くさって、本の“余白”みたいなものだと思うんです。一見、無駄に見えますけど、余白があることで大切な本文がもっともいいかたちで相手に伝わりますよね。この余白を無駄と思って削ってしまって本文だけの本にしたら、誰も見向きもしないでしょう。
僕自身は社会が言うようなエリートコースに乗れなかった人間で、人生そのものが道くさみたいな感じできています(笑)。研究の道に進みましたが、何をどうしていいかわからないし、周りは会社員としてどんどん出世していく。そうするとね、心の中がいじけちゃってるんですよ。それを上手にときほぐして気分をのせてくれたのが、恩師の先生でした。その先生のおかげで、僕のなかにあった柔らかさが花開いたように思うんです」