子どもたちが「道くさ」をする様子を捉えた写真が、ツイッターで話題になった。2006年に刊行された学術書『子どもの道くさ』(東信堂)に収められたもので、このたび14年ぶりの復刊が決まった。著者の水月昭道さんは、なぜ「道くさ」を研究対象に選んだのか。水月さんに聞いた――。
『子どもの道くさ』P44(左)、P50(右)
『子どもの道くさ』
子どもの道くさ』P44(左)、P50(右)より

「子ども時代の記憶が呼び覚まされたんでしょうね」

ひとつのツイートがきっかけとなり、絶版状態になっていた学術書『子どもの道くさ』(東信堂)が14年ぶりに復刊した。コメント欄では「わたしの道くさ」が多数披露され、SNSの世界にほっこりとした空気が流れた。「頭の隅に追いやられていた子ども時代の記憶が呼び覚まされたんでしょうね」と、著者の水月昭道さんはその盛り上がりに目を細める。

近年、習い事の増加や犯罪防止の観点から失われつつある「子どもの道くさ」について、水月さんと考える。

2006年に刊行された『子どもの道くさ』では、安心・安全という大義名分のもとで失われつつある「道くさ」を再考すべく、1999年から2002年にかけて複数の小学校を対象に行ったフィールドワークがまとめられている。

いつかものにしたいと、ずっと温めていた題材だった

水月さんは、学校ごとに数カ月から半年間ほど小学生たちに付き添い、計60パターンの下校ルートで行われた道くさを9つに分類した。たとえば、信号待ちの時間に信号機のボタンを連打するような道くさは「暇つぶし型」。点字ブロックからはみ出さないように歩くルールのようなものがみられるものは「規則型」だ。

「最初こそ子どもたちもサービス精神を出して『僕たちの好きな遊びを教えてやるよ』みたいな感じで後ろをついてくる僕にいろいろ披露してくれたんですけど、そのうち空気のような存在になって、気づいたときに絡む相手、みたいになっていました(笑)」

研究の発端は、水月さん自身が道くさ好きな少年だったこと。いつかものにしたいと、研究者の道に進んでからずっと温めていた題材だった。

「冷水機が設置してあるビルがわかっているから、夏場の暑い時期はそこに立ち寄ってお水を飲む。どぶ川ではカニが歩いているのを眺めたり、笹舟を流したり。春には花の蜜を吸うことも多かったですね。

ただ社会は高度成長の時代で、親や学校の先生からはしょっちゅう『道くさなんかしてるなよ』と小言を言われて。だから隠れて道くさに精を出していました(笑)」