「地域にどんな大人がいるか」を知ることができる

「道くさっていうのは全身を使いますよね。花の蜜を鼻と舌で味わったり、どんぐりを手で拾ったり、町の匂いも季節や場所で変わります。

ドングリでいっぱいの子どもの手
写真=iStock.com/Irina Shpiller
※写真はイメージです

自分の町は硬い材質で作られているのか、潮の香りがするのか、緑に溢れた町なのか……子どもたちは五感をフルに使って自分の記憶の中にマップを作っていきます。その中でいつもとの違いに気づいたり、あるいはこの先は危ないというような動物的な感覚も養われていくでしょう。

それともうひとつ大きいのが、地域の大人との交流です。フィールドワーク中、仲良しのパン屋のおじさんが病気になってしまいしばらく店を休業することになったんですが、子どもたちは自主的にノートを買ってきて閉じたシャッターにそれを貼り付け、『早く元気になって帰ってきてね!』などとメッセージを書き込んでいました。

道くさすることで、地域にどんな大人がいて、その大人たちが自分を見守ってくれていることを肌で感じながら成長できる。そうして育まれた地域に対する信頼は、大人になっていく中で社会への信頼に繋がっていくのではないでしょうか」

子どもが生まれて、「地域」が見えるようになった

突然カットインするが、私は結婚を機にまったく地縁のない場所に引っ越した。マンション暮らしで隣にどんな人が住んでいるかもイマイチわからないし、もちろん、町内会に参加することもない。この町で私の名前を知っている人は夫と歯医者だけで、あいさつ以上の関係性を誰とも築いてこなかった。しかし3年前に子どもができたことで初めて、自分が暮らしている地域や、そこで暮らす人々が立ち上がってきた。

ただの景色だった向かいの団地には同じように初めての育児で奮闘しているお母さんがいたし、子どもの登園を見守ってくれるシルバー人材センターのおじいちゃんは同じマンションの住人だった。案外、この町には芝生のある公園が多いことも知ったし、子育ての不安を相談できるサービスや活動が草の根的に行われていることも知った。

一方で、自分自身の“町の大人”としての振る舞いにはいまだにまったく、自信がない。最近になってようやっと町と親交ができたが、子どもと一緒にいないとき、私ひとりの状態で他の子に話しかけるのはいまだに気が引ける。「近所の気のいいオバチャン」には全然、なれていない。