「世界一周しながら総合職で働く」という挑戦
「正社員で働いているとロングホリデーが取れないという風潮そのものに疑問を抱いていました」。ソーシャル・メディア・サービスのガイアックスに勤める肘井絵里奈さんは、大学時代からこう思っていた。クライアントとの調整や自分の手持ち業務の進ちょくをきちんと管理すれば、正社員だってもっと自由に働けるはずだ。
ガイアックスに転職した際も、この考えを上司に告げ、転職後の2年間はそれを実践してきた。前もって仕事を調整し、2週間の長期休暇を取る。その時間を、趣味の海外旅行に充ててきた。
2019年10月。ふと世界一周の旅に出たくなった。2週間の休暇を年に数回取る程度では、とても自分が行きたい全ての地域を回れる気がしなかった。「旅をしながら働けば可能なのではないか」。そう考えて上司に相談した。「自分で段取りを付けられるならOK」。そんな返事が返ってきた。
即、行動に移した。肘井さんはガイアックスでSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使った企業のPRやマーケティングを手掛ける。それまで10社ほどのクライアントを抱えていたが、それを5社とし、業務量を半分程度に減らした。クライアント5社の担当者にも、「世界一周の旅に出たい」と相談し、即日の対応は難しくなる可能性があることも告げた。クライアントから反対されることはなかった。「そういう働き方を応援したい」という声が多かったという。
世界一周について切り出したのは上長との定例面談
2020年2月。東京都内で借りていた部屋を引き払い、メキシコに飛び立った。中南米を皮切りに、アフリカ、中東からアジアを抜けて帰国するはずだった。しかし、新型コロナの流行が拡大したことを受けて、道半ばの3月中旬に旅を中断し、帰国した。
思いがけず予定より短い1カ月半の旅になったが、仕事しながら旅した期間は充実していた。平日は基本的に観光に充て、仕事は平均で1日2時間程度。ホテルは通信環境が整っているかどうかを事前に調べて予約。朝起きてメールを確認し、急ぎの用件をこなす。朝食をとって観光に出て、夕方ホテルに戻ってまたメールをチェックする。通信環境が整っていない地域に出るときは、クライアントに数日間は連絡が取れなくなる可能性を告げる。
土日はため込んだ作業を朝から晩までこなす。「休日は1日に10時間以上働いていた」と肘井さんは言う。1カ月半、大きな不便を感じずに働けた。
ガイアックスは肘井さんを特別扱いしたわけではない。同社は裁量労働制を採用し、働き方や時間の使い方などを全て社員の自主性に任せている。四半期ごとに上長と目標を設定し、その目標に対する達成度で給与が決まる。肘井さんもこの通常の流れの中で上司と交渉し、世界一周の旅に出た。