「アサヒ ザ・リッチ」は想定を上回る大ヒット
一方、ビールから新ジャンルにシフトする逆の流れも起きた。コロナ禍による経済的不安が、もとからあった節約志向に拍車をかけた形だ。アサヒは新ジャンルの「アサヒ ザ・リッチ」を3月に発売したが、発売当時の計画を上回る売れ行きで、9月単月の販売数量は過去最高の105万箱を記録した。年間販売目標を二度上方修正し、年間950万箱の販売を目指している。
「業務用を中心に『アサヒスーパードライ』はコロナの影響を受けました。しかし、『アサヒ ザ・リッチ』が、ビールの販売減を一部補ってくれました。実は『アサヒ ザ・リッチ』の店頭活動を始めたのは、緊急事態宣言の前。もう少し遅ければ売り場をつくることができず、苦戦を強いられていたかもしれません」(古澤氏)
さらに三つ目の流れとして、ビール・新ジャンルにかかわらず、さまざまなブランドを試す購買行動も目立った。これもコロナ禍で家にいる時間が増えたためだろう。
これら3つの流れが重なった結果、全体ではどうだったのか。アサヒは「数字を俯瞰すると、ビールから新ジャンルへのシフトが他を上回った」(古澤氏)。サッポロも同様で、ビールの販売数量(今年1~6月)が前年同期比78%と落ち込んでいるのに対して、新ジャンルは135%と大きく伸びた。現状では、コロナ禍は従来のトレンドを強化する方向に作用している。
“第4のビール”は今後生まれるのか
コロナ禍でさらに存在感を増した新ジャンルだが、今回の増税で流れは変わるのか。実は今回の税額変更は、18年に決定した酒税改正の第一弾にすぎない。この後、23年10月、26年10月にも税額の変更が行われ、最終的にビールも新ジャンルも同じ税額(350ml缶1本54.25円)になる(発泡酒は23年に新ジャンルに併合)。これまで新ジャンルが受けてきた税制面の恩恵は6年後に消えてなくなる。
「ビールとの税額差がなくなっても、価格差は残ることが予想される。市場が縮小してブランドは淘汰されるものの、一定数は残る」(古澤氏)という見方は強いが、今後は縮小するパイの奪い合いになることが予想される。
「おそらくスッキリ系とコク系に分かれる。わが社はスッキリ系を好むお客様には『クリアアサヒ』、よりコクや味わいを求めるお客様には『アサヒ ザ・リッチ』を提案し、この2ブランドで勝負していきます」(古澤氏)
「新ジャンルは集中化戦略で、当社はツートップの『ゴールドスター』『麦とホップ』をこれからも磨き続ける。プレミアム路線は多様な味の違いで選ばれるが、リーズナブルな新ジャンルは、純粋においしいかどうか。さらにおいしさを追求して、お客様の期待に応えていきます」(野瀬氏)
さらに安い“第4のビール”の開発はあるのかと問うと、「定義によるが、税率が一本化されるので考えていない」(野瀬氏)「むしろビールより高いプレミアムな新ジャンルを開発する可能性もある」(古澤氏)ときっぱり。今後は新ジャンルも安さではなく味や機能性で訴求する時代になりそうだ。