組織のベクトルをひとつにする明確な目標と計画

日本ゼオンの古河直純社長(66歳)。慶大アイスホッケー部では主将を務めた。古河グループ創業家の兄弟姉妹7人の末弟でもある。

〈まずやってみる〉。清閑なフロア。受付横の画面には、そんな言葉が映っている。「ゼオノアフィルム」で知られ、特殊合成ゴムや高機能樹脂をメーンとした一部上場企業。約3000人の社員を束ねる古河社長は「スピード・対話・社会貢献」をスローガンとしている。

応接室。いきなりストレートな質問を投げる。「社長として何かを持っているとすれば何ですか?」と。古河社長が人懐っこい笑顔をつくる。

「あえて言えば、日々決断するということでしょうか。準備も必要でしょう。大切なのは、社員みんなにその気になってもらうということです」

つまりは、LEAPにあるマネジメントの10のスキルのうち、「問題解決力」「動機づけ力」か。古河が社長に就任したのが2003年6月。その際、前社長は古河をこう評した。「施策をきちっと出せるし、人を納得させる話術、従業員の心をつかむ力、人を動かす人柄の明るさや行動力がある」。

いわば「リーダーシップ力」。人としてチャーミングなのだ。古河グループ創業者の家系。慶大ではアイスホッケーに打ち込んだ。主将も務めた。

「社内的には対話って大事ですよね。従業員にいかに早く少しでも理解してもらうか。そういうのは体育会とまったく一緒だと思います。4年生に言えば、3年生、2年生と順に伝わっていく。ピラミッド型の組織の典型が運動部。やり方、進め方はまったく一緒なんじゃないでしょうか」

アイスホッケー部時代の経験が会社運営のベースの一部になっている。例えば、組織を構成する人々のベクトルをひとつにする。明確な目標と計画があって初めて人は動き出す。

学生時代、古河主将は「打倒! 早大」を打ち出した。戦力で劣っていても、危機感があればチームは変わる。戦略を打ち立て、こういう練習をすれば必ず勝てるという自信を持たせる。

「全員がひとつの方向にベクトルを合わせてやれば、相手がいくら強くても勝てます。会社でも同じ。やっぱり危機感がなかったら組織はたるんでしまう。だけど、今こういう手を打てば当面は克服できるし、将来はこういうバラ色の展開になりますよ、という話をきちんとすればいいわけです」

もちろん、成功する計画とは、組織を構成する人がその意味と手法を理解する必要がある。現状をしっかりとらえ、実行計画は明確でなければならない。計画遂行のため、どうしても練習(準備)は過酷を極めることになる。

「結局、全然勝てないといわれていた早稲田には勝った。もう明治に勝てばリーグ優勝だというところまでいったんですけど、危機感を持った明治に逆にやられてしまいました」

(続く・文中一部敬称略)

(小倉和徳=撮影)