自己開示は表面的な小ネタで十分だ

そこでひとつの指針を示そう。自己開示には大きく分けて2種類ある。内面的自己開示と表面的自己開示だ。前者は「最近、妻とうまくいっていない」などの込み入った(時に深刻な)情報を指すが、そんなレベルまで開示することはない。

私のよく知るお店や会社は、基本的に後者の表面的自己開示を用いてお客さんと対話する。具体的には「最近こんな映画を観た」「家族でどこそこへキャンプに行った」など、ブログやインスタグラムなどで公開しても差し支えない情報だ。SNSにはこの手の自己開示情報があふれているので、SNSをよく使う方々なら手慣れたものだろう。

自己開示の際に出すべき情報は、そのような、できるだけ身の回りのことがいい。私生活のささいな情報だ。岡山県津山市のある美容院の店長は、名刺の裏面に「店長の取扱説明書」と題した自己開示情報をちりばめ、お客さんに渡している。内容は「週刊少年ジャンプを長く購読している」といった表面的自己開示の小ネタばかりだが、そこから「ジャンプのどの作品が好きなんですか」と話が広がるのだ。内面的自己開示のように重すぎず、発信者の人となりが垣間見える。それが良い自己開示である。

失敗談を披露するのもいい。笑い話になる程度の軽い失敗談だ。コツは二枚目半の線でいくことだ。普段よく自己開示しているのなら、良い話が6割、失敗談的な話が4割ぐらいの割合だとちょいうどいい。あまりに完璧に見える人は敬遠されやすいものだ。崇拝されることはあっても好かれない。すると心理的安全性に基づく良好な関係を築くのが難しい。仕事はバリバリできて一見完璧そうに見えるのに、先週飲み過ぎて、帰路横浜で降りるはずが気がついたら熱海だったとか、そういう意外な一面を見せると関係性は深まる。

人間味を感じると人は親近感を抱く

失敗談とは少し異なるが、われわれの長年の経験のなかでは、病気やけがで入院したことを発信したときのお客さんの反応のすごさにはいつも驚かされている。東京都あきる野市のあるクリーニング店の店長は、脚立から落下して骨折、緊急入院したことをSNSに書いたところ、その晩からものすごい反響があった。もちろん心配する声が多かったが、一方でこうしたエピソードに何か人間味を感じて親近感を抱くものなのである。

こうして自己開示をすると、その人のことが分かってくる。われわれは相手の外見や仕事中の言動などから、つい人となりを推測し、決めつけてしまう。例えばいかついこわもてで、仕事も良い意味でしゃくし定規にやっていると、そういう人だとしてしまう。しかし自宅ではハムスターを何匹も愛玩し、それぞれ名前をつけて日々たわむれていると聞けば、イメージはずいぶん変わるだろう。そしてそのイメージは心理的安全性に通ずる。警戒心が解け、心理的距離が縮まり、お互いに安全な存在になっていく。そこに先ほどの信頼が掛け合わされれば、そこには良好な関係が醸成されていくのである。