長い付き合いの相手にも自己開示は効果的

自己開示が人と人の関係性を変える現象は、心理的メカニズムの深い部分で作動している。だからこそ、単なる売り買いの関係に終始することの多いお店とお客さんとの間でも、売り手が自己開示を始めた途端に変わっていく。

2年前、福岡県柳川市のある美容院が、私のもとで今お伝えしていることを学び実践し始めた。そして自己開示を始めて1年半たち、先日いただいた報告によれば、お客さんが明らかに優しくなったという。最近はお客さんも自発的に自己開示してくれるそうで、10年来のお客さんであっても知らないことばかりだと気づかされた。「そんなことをおやりになっていたのか」と驚くことも珍しくないそうだ。こうした関係性の変化の結果、この1年半で、月に1回以上来店される上得意客数は倍増、客単価も千円アップするなど、業績面にも良い変化が生まれている。

同店にお客さんが長年通ってくれているのは、技術面・サービス面ともに満足している証しと言えるが、そんな上得意客でもこれまでお客さんから自己開示してくれるような関係性はなかったことになる。しかし自己開示を始めて間もなくそれは醸成され始め、今ではすっかり自然なこととなった。こうした実例から分かることは、付き合いが何年続いている相手だろうと、唐突に今日から始めても、自己開示には効果があるということだ。どんな相手にも、活用し始めるといいだろう。

1分間の「最近の出来事」が心の距離を縮める

ちなみに自己開示は、何かひとつネタ的にカミングアウトすればいいというものではない。自己開示的なコミュニケーションを、日常的に継続することが肝要だ。とはいえ多くの会社組織では、プライベート情報を出さないのが当たり前になっていることだろう。業務中にそういうことを話す人は少ないし、ましてや会議の席で言及するなどもってのほかとされる。会社によっては業務中に無駄口をたたくなという空気さえある。そのことが心理的安全性の土壌づくりを妨げているかもしれない。

かといっていきなり無駄口奨励も難しいかもしれない。そこで私が推奨したいのは、本稿冒頭の投げかけ、朝礼や会議などの初めに、最近の良かった出来事、新しい出来事を1分間で手短に話す。手始めにこれを行ってみることだ。冒頭でも述べたが、1分という制約があるし、元々こういう投げかけに対して崇高な話をする人は少ない。大抵は他愛ない内容だ。しかしそれがまさに格好の自己開示の機会となる。

人と人との関係性の醸成にマニュアルや必殺技はない。ことにチームマネジメントの場合、私はよく「土壌を耕す」という言い方をするが、一発ネタや一撃で土壌を耕すことはできない。だからこそ、それが豊かに耕された関係やチームは、こういう先行きの読めない時代にも、ひときわ強い存在となるのである。

【関連記事】
ファーストクラスの女性は何が一番違うか
バカほど「それ、意味ありますか」と問う
「半沢直樹」に憧れる人は要注意、40代で伸び悩む人の共通点
「先のことはまだ何も」64歳の客室乗務員は大減便の最中でも笑顔だった
釣り銭をトレーで渡されて「店長を出せ」と激怒した高齢男性のホンネ