クォーーーンという官能的なエンジン

とはいえ、若き日に往年のレーサーレプリカブームを経験した年齢層のライダーなら、〈久々に4気筒エンジンを積んだ250ccのスーパースポーツ〉にノスタルジーをくすぐられるだろうが、30代から下の世代が『25R』の存在意義に興味を示したり、価値を見いだしたりできるものだろうか?

完全新設計の水冷4ストローク並列4気筒エンジン(写真提供=カワサキモータースジャパン)

「もちろん、単純に4気筒という記号性だけで若いライダー層の心をつかむのは難しいでしょう。ですが一度自分で乗るか、誰かが走らせているところに出くわしたりすれば、エンジンが高回転まで回ってスピードが伸びていく感触や、それに伴うクォーーーンという特徴的なハイトーンの排気音など、単気筒や2気筒とは明らかに違う魅力を感じ取ることができるはずです」(松田氏)

同じ4気筒でもこれが600ccや1000ccといった大排気量モデルとなると、高回転まで回せば日常域のスピードでは収まらず、性能を味わい尽くすにはサーキットに持ち込むしかない。しかし『25R』は250ccという小排気量であり、最先端の機能が搭載されているがゆえに、法定速度で走っている街中でも4気筒エンジンを操る喜びを気軽に、安全に楽しめるのだ。

「『ヤングマシン』の読者から今、『25R』について寄せられる声で圧倒的に多いのが、〈どこまで回るのか〉〈どんな音なのか〉への興味。スタイルやコンセプトではなく、エンジンがここまで話題になるバイクは本当に珍しいですね。一度走らせてあの官能的なエンジンのうなりを聞けば、バイクのメカニズムに疎いビギナーでもぞくぞく、わくわくするだろうし、これまで経験したことのないすごいものに乗っているという実感を得られるはず。結局バイクって、数字上のスペックよりもライダーが心地よいと思えることのほうが大事で、すごく感覚的な乗り物なんです。つまり『25R』はバイクが持っている根源的な魅力を、令和のこの時代に改めて教えてくれるマシンだと言えるでしょう」(松田氏)

業界人も驚く潜在ニーズの掘り起こし

各地の販売店からの情報によれば、発売前から『25R』の購入予約をしていた顧客のコア層はやはり40~50代。しかし、レーサーレプリカブームを知らない20~30代からのオーダーも想定以上に入っているのだという。

「もちろん、ほとんどの若いライダーは250cc4気筒マシンを実体験したことなどないのですが、“噂に聞いていた高性能バイク”として耳学問でそれなりの情報は持っています。そんな彼らが、カワサキのティーザー広告としてYouTubeにアップされていた動画で独特の排気音をチェックしたり、メディアのプレビュー記事で想像を膨らませたりして、いわば期待値込みで購入を決断したんでしょう」(松田氏)

幅広い層を巻き込んだからこそ、発売前から年間販売予定台数をほぼクリアするという結果につながったわけだ。

今年注目を集めたバイクを挙げるなら、同じく年間販売予定台数を早々に売り切ってしまった6月発売のホンダのオフロード系モデル『CT125』と、『25R』が双璧だろう。特に、メカニズムや排気音などマニアックな部分がこれだけ取り沙汰される『25R』のようなバイクは、近年では本当に珍しい。

「最近は世間の目が厳しく、ライダーたちも絶対的なスピードは追い求めない傾向にある中、手の届くところでバイクを操ったという快感を味わいたい、スポーツ走行の世界を楽しみたいという人の心をつかんだのだと思います。このところのカワサキは、ライダーがぼんやり『こういうバイクが欲しいな』と感じている潜在ニーズを、ずばっと形にしてマーケットへ投入してくるのが抜群にうまい。理屈じゃなく、感性に訴えかけるバイクを作って、すれっからしなはずのわれわれ業界人さえも驚かせてくれるんです」(松田氏)

日本の4大バイクメーカーの中では“仕掛け人”的役回りでエポックメイキングなモデルをリリースし続けているカワサキ。次は、どんな意欲作でライダーをワクワクさせるのだろう。

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