14年間、メーカーのカタログから姿を消していた

松田氏の言葉の真意を理解するには、日本バイク史の時計を少しだけ巻き戻す必要があるだろう。

1980年代のバイクブームの頃、フルカウルのスタイルで武装し、高回転・高出力が得られる250cc4気筒エンジンを搭載したスーパースポーツモデル(当時は「レーサーレプリカ」と呼ばれた)は、日本の二輪メーカーのドル箱商品のひとつだった。

「ところが行き過ぎた性能競争によって誰もが気軽に楽しめるマシンではなくなり、加えて高額化したことで、ライダーたちから敬遠されるように。そこへ80年代末から、反動として『ネイキッド』(カウルなどのない、懐古的なスタイル)ブームが巻き起こったこともあり、流行遅れのトレンドとなったレーサーレプリカ系のモデルは駆逐されてしまいました」(バイクジャーナリストの谷田貝洋暁氏)

さらに2006年に施行された平成18年自動車排ガス規制がとどめとなり、生産コストがかかる4気筒エンジンを搭載した250ccマシンそのものが、各メーカーのカタログから完全に姿を消してしまったのである。

そんな状況だった08年、カワサキが突如『Ninja250R』なるバイクを発売する。フルカウルの外観を持ちながら、扱いやすく低コストな2気筒エンジンを搭載したこのモデルは発表時、各方面から「こんなどっちつかずのバイクを誰が買うのか?」と疑問視された。しかし、久々に登場した戦闘的なデザインがレーサーレプリカブーム時代を知らない若い層には新鮮に映ったようで、大方の予想を裏切ってまさかの大ヒット。

「これを機にホンダ、ヤマハといった競合メーカーも250ccクラスに2気筒エンジンを積んだスーパースポーツモデルを投入し、熱い戦いが繰り広げられるようになりました。中でも17年に発表されたホンダの『CBR250RR』は、『Ninja250R』の進化版として13年に登場した『Ninja250』を性能的にはるかに凌駕したので、販売面でも250ccスーパースポーツモデルの国内トップに躍り出ました」(谷田貝氏)

破格のバーゲンプライスが示す、カワサキの本気度

一方、インドネシアなど東南アジアでも250ccクラスのスーパースポーツは大人気となっていて、日本以上の市場規模に成長。その東南アジアマーケットでも近年、『Ninja250』は『CBR250RR』の後塵を拝し続けていたため、現地のカワサキ派ライダーからはより高性能な新型マシンを求める声が高まっていた。

「こうした東南アジア市場からの熱い要望に、カワサキ本社開発陣の『技術の粋を集めた250cc4気筒エンジンをまた世に問いたい』という技術者魂が重なり、250ccスーパースポーツの盟主の座を再びカワサキが取り戻すため、言い換えれば“ストップ・ザ・『CBR250RR』”の使命を帯びた刺客として誕生したのが、『25R』なのです」(谷田貝氏)

発売前にいち早く『Ninja ZX-25R』を取り上げた、バイク雑誌『ヤングマシン 2019年8月号』の誌面。現在の実車のデザインとは異なる
画像=『ヤングマシン 2019年8月号』
発売前にいち早く『Ninja ZX-25R』を取り上げた、バイク雑誌『ヤングマシン 2019年8月号』の誌面。現在の実車のデザインとは異なる

しかもこの『25R』、ハイスペックな250cc4気筒エンジンを搭載しているだけでなく、驚くべき価格でリリースされたのだ。

「商品価値からすれば100万円超の値がつけられても当然なので、『ヤングマシン』では希望的観測も含めてギリギリ100万を切る価格となるのでは、と事前予想していました。ところがいざ蓋を開けてみると、標準モデルで税込み82万5000円、上位モデルでも91万3000円。これは2気筒エンジンを積んだ“仮想敵”のホンダ『CBR250RR』とほぼ同レベルです。4気筒エンジンは部品数だけでも2気筒よりほぼ2倍になる上、『25R』にはクラス初となるクラッチ操作なしでギアチェンジできるクイックシフターや、安定した車体の挙動をサポートする3段階トラクションコントロールといった最新装備も盛り込まれているので、破格のバーゲンプライスと言えます。カワサキがいかに本気で『CBR250RR』のシェアを奪いに来ているかがわかる、戦略的な値付けですね。日本の一般的なライダーにとって、購入を検討するか否かの境目になる値段が100万円あたりですから、何ともうまい価格設定をしてきました」(松田氏)