アメリカの本命はイスラエルとサウジの国交樹立

注目されるのは、UAEに続いてイスラエルと国交を結ぶ国が出てくるかどうかである。20年9月11日にはバーレーンがイスラエルと国交正常化に合意したと発表。さらにイスラエルのネタニヤフ首相は、他のアラブ諸国との国交正常化にも取り組む意欲を示しており、同じ湾岸アラブ諸国では今回の国交正常化を歓迎する声明を出したオマーンなども候補に挙げられている。また今回セルビアとコソボの関係正常化を演出したトランプ大統領は、イスラム教徒からなるコソボとイスラエルの橋渡しを宣言している。

しかし、仲介役のアメリカが本命にしているのはシーア派イランと対抗するスンニ派の盟主、サウジアラビアである。サウジはアラブ世界におけるアメリカの最大の同盟国であり、トランプファミリーとサウジ王家も臭いほど親密な関係にある。娘婿のクシュナー氏とサウジのムハンマド皇太子もまた超昵懇。サウジのムハンマド皇太子といえばジャーナリスト殺害事件への関与が濃厚として責任問題が取り沙汰されたが、クシュナー氏はまったく問題にせず、事態を乗り切るために個人的な助言までしている。

UAEとイスラエルの国交正常化に関しても電話一本で、UAEのムハンマド皇太子のOKを取り付けていたに違いないが、サウジとイスラエルの国交正常化についても、クシュナー氏はサウジのムハンマド皇太子やサルマン国王と何度も話し合ってきたという。しかし、アラブ世界のリーダーとしては「アラブの大義」を簡単に捨てるわけにはいかない。

UAEとイスラエルの和平合意を受けて、サウジのファイサル外相は「サウジは従来の『アラブ和平構想』の立場を維持する」と述べている。アラブ和平構想はアラブ諸国がイスラエルと関係正常化を図る条件として、サウジのアブドラ前国王が2002年に示した和平案で、イスラエルの占領地撤退やパレスチナ国家の樹立などが掲げられている。つまり、サウジはパレスチナ問題を棚上げにしての国交回復はしない、とファイサル外相は言っているわけだ。とはいえ健康問題を抱える高齢のサルマン国王に代わって、ムハンマド皇太子のような若い指導者がサウジ国内に台頭してくる中、アラブの大義にどこまでこだわれるだろうか。

そもそもサウジとイスラエルの接近の背景にあるのは、地域大国イランの脅威だ。