売り手と買い手の主張はなぜくい違うのか

【田中】ここであらためて価値について考えたいと思います。たとえばプロ野球でMVP(Most Valuable Player)選手を選びますが、このMVPの「V」がValuableです。もっとも価値の高い、つまりValuableな選手をどうやって選ぶかと言えば、記者の投票によって決めるわけです。

これは、一見すると客観的な評価に思えますが、よく考えれば投票する記者の主観です。当然そこには投票者の好き嫌いが反映されてしまう。では価値ある選手を数値で選べるかと言ったらそれもできない。このことからわかるように、価値を数値化したり客観評価するのはとても難しいということです。

「将来価値」の評価にも主観が入る

そしてもう一つ、近年「企業価値」という言葉がさかんに使われます。この企業価値は必ずしも正確に定義されていないのですが、一つだけ明らかなのは「将来」を含んで使われていることです。

山本豊津、田中靖浩『教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」』(KADOKAWA)

会社のM&A(合併・買収)の場合で言えば、会社そのものに値段をつけないといけません。このときにつけられる企業価値の値段は、「その会社が将来いくら稼ぐか」を見積もることによって計算されます。過去の業績や現在の決算書は関係ありません。企業価値は「将来いくら稼ぐか」の見積もり計算です。見積もりだから、そこには主観が入ることを避けられません。

当然ですが、売る側は自分の価値を高めに想定するし、買う側は安めに想定します。お互いの想定する価値と価値がぶつかり合い、交渉力の結果として決まるのが「価格」です。売り手と買い手の主張する価値が違うというのは、絵画でもほかの資産でも同じだと思います。

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