定年後を楽しく生きるにはどうすればいいのか。公認会計士の田中靖浩さんは「50代の生き方がカギだ。会社という後ろ盾をなくして精神的なダメージを受ける人は多いが、打開策はある」という――。

※本稿は、田中靖浩『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス新書)の一部を抜粋したものです。

50代の男性は絶望的な顔を見て顔を隠し
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仕事の実力=会社力×商品力×自分力

定年のときに失うものはいくつかありますが、その代表が「名刺」です。

名刺はサラリーマンにとっての象徴であり、そこにはその人がこれまで会社につぎ込んできた努力とプライドのすべてが詰まっています。名刺がなくなることは、言葉にできない喪失感をもたらすようです。

名刺には「会社名」が書かれています。そして部署名のなかに何を扱っているかの「商品名」も書かれています。

会社名と商品名、この2つは顧客側から見て極めて重要な情報です。顧客は「その会社の商品」だから信頼して購入するわけです。そんな顧客がいてくれるからこそ、この名刺で仕事ができるわけです。

定年とともにその名刺を失うことは、何を意味するのでしょう?

それは「会社」の後ろ盾と、売りものである「商品」の両方を一度に失うということです。それでもあなたがそのあと何か別の仕事をできるとしたら、それこそが「自分」の実力です。このように考えてみましょう。

仕事の実力=会社力×商品力×自分力

会社の名前と商品はあなたのものではありません。それを失ってもなお残る仕事の実力こそが「自分力」です。

たとえば金融機関に勤めている人は、定年と同時に会社名と融資や預金などの商品メニューを失います。そのあとに残る自分の力とは何でしょう?

会社を去って「自分力」の弱さに愕然とする

これについて、「そんなことは考えたこともない」という人が多いのではないでしょうか。サラリーマンとして働いている間は「会社」と「商品(サービス)」が強力なほど仕事が順調に進み、稼ぎが大きくなります。

そもそも、多くのサラリーマンは就職活動の際、有名な大企業や優れた商品をもつ会社に入社したいと願っていたはずです。その選択は安定した給料がもらえるという意味では正解です。

しかしながら、「会社」と「商品」の強い会社に長年勤めると、そこを去るとき「自分力」の弱さに愕然としかねません。この落差とそれに伴う精神的ショックは極めて大きいです。これは極めてまずい。なぜなら自分力の弱さと自信のなさは、定年後フリーランスのさまたげだからです。

定年後フリーランスを目指すなら、「サラリーマン時代から定年後フリーランスまで連続するもの」をこしらえましょう。それには資格のように目に見える専門性、目に見えないスキル、特別な人的ネットワーク、などなどいろいろなものがあると思いますが、まずは具体的に見えるものを用意すべきです。