葬式に呼ばれることが減っている
世の中には気づきにくいことがある。
何かに呼ばれたなら、そのことは覚えているが、呼ばれないと、それについて意識することがない。「そう言えば、ここのところ葬式に参列したことがないな」と思う人も少ないだろう。葬式に参列する機会は相当に減っているはずだ。私も、ここ数年その機会がない。
そんなことを周囲の人間に話してみると、「『葬式は、要らない』などという本を書くから、葬式に呼ばれないのだ」と言われてしまう。だが、それは違う。親戚や知り合いで亡くなった人がいても、葬式は行われず、家族だけで見送ったというケースが増え、葬式に呼ばれないのだ。
そのため、フォーマルウェアを販売しているアパレルメーカーは、売り上げが落ち込み、それで困っているとも聞く。以前は、多くの参列者を呼ぶ葬式が一般的だったが、今ではそうした葬式が珍しくなった。働き盛りで急に亡くなったという人でもなければ、家族葬や直葬で葬られるようになってきた。
企業が冠婚葬祭にかかわらなくなった
なぜ、葬式をしなくなったのだろうか。
さまざまな理由が考えられるが、「死者の高齢化」ということがそこに関係していることは間違いない。80歳代、90歳代で亡くなれば、故人の同世代の知り合いは、すでに鬼籍に入ったか、もしくは高齢で、葬式に参列することができない。実際、私も経験しているが、祖母や叔父たちの葬式がそうだった。家族以外に参列者がいなかったのだ。それでは、一般葬をやる意味がない。
もう一つ大きいのは、企業が葬式にかかわらなくなった点である。戦後の企業は、葬式に深くかかわっていた。村には、「葬式組」というものがあり、それが葬式全体を取りしきっていた。戦後の企業に就職したのは、多くが村の出身者だった。企業は、葬式組に代わる役割を果たすようになった。受付や式場への案内は同僚がやり、式にも多くの社員が参列した。
しかも、自分の会社の人間の葬式だけではなく、取引先の会社の人間の葬式にも参列した。もちろん、取引先の人間の親のことなど知るはずもない。それでも香典を持って出かけていったのである。
近年では、企業が、葬式だけではなく、社員の冠婚葬祭全般にかかわらなくなった。そこには、会社と社員との関係の変化が示されている。正社員ばかりではなく、非正規の社員が増えたことも影響している。企業がかかわらなくなったことによって、葬式の参列者の数は激減した。