溺れる犬を棒で叩いたうえで、石まで投げつける

最近で言えば、東京高検前検事長の黒川弘務が典型だった。そもそもこの人は政権に忖度する検察幹部と言うのだけれど、安倍政権に尻尾を振る官僚はほかにもいっぱいいる。検察官の定年延長問題も安倍政権が画策しただけで、黒川自身は関与していない。

しかし、賭けマージャンが発覚して辞任せざるをえなくなり、しかも、その処分が懲戒ではなく退職金の出る訓告だったことで多くの人の反感を買った。要は「賭けマージャンをしたのに退職金をもらうのはけしからん」というわけだよ。

池田清彦『自粛バカ』(宝島社)

テンピンの賭けマージャンなんてたいした額じゃない。株のインサイダー取引で20億〜30億円儲けているやつのほうがよっぽど悪党だと思う。けれども、そこは国民は怒らないんだよね。20億〜30億円もの金なんて見たことがないし、巨額すぎるからリアリティがあまりない。それに比べれば、黒川弘務が受け取る5900万円の退職金は多くの人が怒りをぶつけるのに程よい額の金なのだ。そういう意味では完全にいじめだよ。

日本人の感性がヘンだなと思うのは、こういうところだね。日本以外の国の人なら、検察官が賭けマージャンをした程度の話なんて些末な出来事だと考えるはずだよ。そんなことより、国のシステムや法律が変わるようなときにこそ大騒ぎをする。それは国家安全法をめぐってとんでもないことになった香港を見ればわかる。でも、日本人は国を揺るがす大きな問題には反応しない。仕方がないと思って腹も立てない。

どう考えたって、本末は逆だと思うよ。消費増税には文句ひとつ言わないのに、なぜ公務員が退職金を受け取ることをあれほど騒ぎ立てるのか。緊急事態宣言中に出歩く人のことも極悪人のようにバッシングし、石田純一なんかめちゃくちゃ叩かれていたけれど、彼も出発する前に発症していたら沖縄に行かなかったと思う。

写真=iStock.com/ongleon356
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結局、強い相手には口をつぐむけれど、いじめてもよさそうなやつをターゲットにして、みんなで徹底的に叩きまくるんだよね。溺れる犬を棒で叩いたうえで、石まで投げつける。日本人っていうのはそういう国民性なんだ。そうやって、日頃のフラストレーションを解消しているんだな。

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