マイナンバーと銀行口座と課税の公平性

なぜか。それはこのひも付けに対する拒絶反応が非常に強いからだ。とりわけ左派メディアや市民運動家ら抵抗勢力のアレルギーは相当なもので、プライバシーに直接国家が入り込むことを断固として拒絶する。また、その物言いの影響を中途半端に受けた一般の国民にも、漠然と「いやだな」という拒絶反応を示す人は少なくない。導入の目的を前述の3つとしたのは、その反発を避けるのに表現を和らげる必要があったからだ。しかし、このままで本当によいのだろうか?

とっくにお気づきだろうが、マイナンバーには課税の公平性が深く関わる。同制度の導入に関して財務省・国税庁の意向が色濃く出ていることに、誰も異論ははさまないだろう。目的は言うまでもなく、洩らさず税金を徴収すること。とりわけ富裕層への課税強化である。

国家が個々人のプライバシーに触れることに「いやだな」と感じることは重要かもしれない。情報漏洩も心配だし、そもそも国じたいを信用できないという人もあろう。しかし、富裕層とは縁遠い大半の国民の収入や資産を、当局が把握するのは現在のままでもさほど難しくない。給与は1社からの振り込み、銀行口座も数個、資産の構成も単純だ。把握しづらい実入りを強いてあげるなら、副業の収入くらい。マイナンバーの有無で大きな不利益を被るとは考えづらい。

逆に、富裕層の収入や資産は複雑だ、複数の会社から収入を得たり、保有資産も国内外の不動産、有価証券等々多岐にわたり、その全容を把握するにはコストがかかってしまう。しかし、たとえば相続税対策で家族名義の口座に資産を移そうとしても、国税当局が口座を把握していれば難しくなる。財務省・国税が本当に把握したいのは、彼らの収入・資産だと言い切って間違いなかろう。

IT化の遅れを嘆きながらマイナンバー制度を拒絶

実際、貧困層に等しく給付されるべき生活保護の不正受給を防ぐ効果も期待できる。なのに、格差社会を糾弾し、給付金の遅れ、国のIT化の遅れを嘆きながら、一方でマイナンバー制度を盲目的に拒絶することは、累進課税の税率がずっと下がってきた富裕層の税金逃れを放置して税制上の不公平を招き、ひいては格差社会の深化を是認することにつながりかねない。それでも声高に反対する人々というのは、実は富裕層かその代弁者なのかもしれない。自分が拒絶反応を示す論拠がどこから来たのかを、一度確認しておくことも肝要だろう。

今後、政府は「マイナンバー制度改革」を本格的に推進させる。今年1月、麻生太郎財務相はマイナンバーと預貯金口座を連結する制度の義務化について、年内に具体策をまとめ、2021年の通常国会での法案改正を目指すことをすでに示唆していた。改革は2段階ある。まず第1段階では、給付金の振込先として口座1つをひも付けるが、その人のすべての口座をひも付ける第2段階が一番のキモである。その是認と否認のどちらが、自分にとって損なのかオトクなのか、あるいは無関係なのかを、広い視野に立って見極めておいたほうがよさそうだ。

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