したたかな北朝鮮の対韓政策

今回、金与正氏が韓国に強硬姿勢をとる“悪”の役割を演じ、兄の金正恩氏が南北間の緊張を和らげる“善”の役割を果たしたように見える。それは、韓国や中国からの支援を取り付け体制維持の時間を稼ぐためだろう。また、6月25日は朝鮮戦争勃発70周年記念日だ。北朝鮮はそれにあわせて軍事計画を保留し、韓国のさらなる宥和(ゆうわ)を引き出そうとしたとも考えられる。

6月に入り、金与正氏は開城(ケソン)の南北共同連絡事務所を爆破するなど、韓国への強硬姿勢を鮮明にした。その上で与正氏は軍部に行動計画を指示した。その際、与正氏は2つの重要なポイントに言及した。

1つ目は、「軍の行動計画が人民の怒りを静めるだろう」という発言だ。それは、国連制裁や新型コロナウイルスの発生によって中朝の国境が閉じられ、北朝鮮の市民生活がかなり厳しくなっていることへの危機感の表れと解釈できる。

2つ目が、金与正氏が「金委員長から与えられた権限を行使する」と発言したことだ。それが示唆することは、連絡事務所の爆破や軍事行動の策定が、あらかじめ金委員長の承認のもとで進められたことだ。そのうえで、金委員長が登場し軍事計画の保留が決められた。金委員長は妹を悪者にすることで、自らが文大統領との関係を重視しているとの印象を強く示そうとしたのではないか。

見方を変えれば、北朝鮮は疲弊している

その結果、北朝鮮の韓国に対する強硬姿勢は、ひとまず表向きには、幾分か後退したように見える。韓国メディアは、23日に中央軍事委員会の予備会議が開催された後、北朝鮮では韓国を批判する報道が一斉に削除されたと報じている。そのほか、北朝鮮が設置を進めた対韓放送用の拡声器も撤去された。

そうした対韓工作は、あまりに稚拙に映る。金与正氏が対韓強硬姿勢を強めることによって、北朝鮮は韓国を動揺させた。その後、金正恩委員長は軍の計画を保留して強硬姿勢をおさえた。それによって金委員長は韓国社会の不安を解消し、文大統領を籠絡(ろうらく)したいのだろう。

見方を変えれば、そこまでしなければならないほど、北朝鮮は自国が疲弊していることを内外に露呈したといえる。