一番ほっとしているのは文在寅
金正恩委員長が軍事行動計画を保留したことに関して、一番ほっとしているのは韓国の文大統領だろう。北朝鮮が強硬姿勢を抑える立場を示したことは、文政権が南北の宥和の重要性を主張し続けるために欠かせない。経済運営を思うように進められなかった文氏としては、南北宥和の推進によって何とか成果を世論に示したいはずだ。
文政権が発足して以来、韓国経済の成長率は低迷している。政権発足後、公共事業などに支えられた中国経済の持ち直しが韓国の輸出を増加させ、一時的に韓国の景況感は上向いた。
しかし、2018年以降、中国経済の成長の限界や米中貿易摩擦の激化によって、主力の半導体を中心に韓国の輸出は減少した。その結果、韓国経済の成長率は急速に低下した。さらに、文大統領は経済成長率を大きく上回るペースで最低賃金を引き上げた。それは企業の収益を減少させ、所得・雇用環境が悪化した。
昨年末には、韓国経済を牛耳ってきた最大手サムスン電子でも全国組織に加盟する労働組合が結成されるなど、経済への不満は高まっている。
中国の消費は回復したが韓国は難しい
2020年に入ると、新型コロナショックの影響によって輸出が一段と減少した。3月中旬には資金が急速に流出し、一時、韓国が自力でドル資金を調達するのが難しくなるのではないかとの懸念が高まる場面もあった。
現在、韓国の金融市場は落ち着いているものの、依然として輸出は減少傾向にある。中国では外出制限などによって落ち込んだ消費が回復している(ペントアップ・ディマンド)が、韓国がそのおこぼれにあずかることは難しいだろう。
韓国は米国から対中半導体輸出を見直すよう圧力をかけられている。また、中国政府は環境対策を推進するためにハイブリッド車の普及を重視し始めた。それはトヨタ自動車をはじめ、わが国企業にとって追い風となるだろう。
その状況下、金委員長が報復行動を保留したことに文氏は安堵しているはずだ。文大統領は南北統一の夢を追い求め、北朝鮮との宥和こそが韓国の繁栄につながるとの主張を強めるだろう。