夫の介護経験から「今度は自分がお役に立つ番だ」
山田さんは静岡県生まれ、高校卒業後に東京の私大に進学した。卒業後は1年間ほど高校の社会科の教員として働き、25歳で結婚後は専業主婦に徹してきた。
子育てが終わり、趣味のテニスやゴルフ、レザークラフトなど趣味を楽しんでいたある時、夫が急に山田さんにこう打ち明けたという。
「会社に1人で行けないから、明日から一緒について来てくれないか」
長年通い慣れたはずの通勤電車の乗り換え方法が急に分からなくなったのだと不安そうな顔をしていた。その日から毎日、山田さんは夫を会社まで送り迎えをするようになった。さらに夫の症状は悪化し、とうとう仕事ができなくなり、介護生活となった。
「私は専業主婦の時にスポーツや趣味など十分好きなことをして遊んできました。だから、つらいと思うことなく、思う存分に介護に取り込むことができ、主人に恩返しができたのだと思います」
どんな時でも前向きに楽しみたい。そう思った山田さんは重度の認知症であった夫を連れて、山登りに行ったり、バス旅行にも行ったりした。認知症の会にも入り、そのサポートも心の支えになった。
夫は6年前に75歳で亡くなった。それから、山田さんは「たくさん助けてもらったから、今度は自分がお役に立つ番だ」と思い、認知症の当事者や家族のためにボランティア活動を始めた。現在もスターバックスで働きながら、週に1回は参加している。
介護活動からコーラスグループまで大忙し
山田さんは言う。
「皆さん仕事を始めるときはいろいろな条件を聞くのでしょうが、私が尋ねたのはボランティアを続けられる勤務時間にしてくださいということでした」
勤務時間は週に2回、10時から14時までを基本としている。山田さんは認知症だけではなく、高齢者施設での介護やコーラスグループでのボランティア活動を行っているため、家でのんびりする日にちはほとんどない。
スターバックスは高齢者や障害者に対しての理解が深い企業だ。障害者雇用にも積極的で、店内に飾られていた絵画は知的障害者の手によるものだった。
そのような理念の一致が、山田さんが50年ぶりに仕事をすることになり、「かっちゃん」となった理由であろう。
スターバックスは業務を限定した短時間雇用制度を導入し、シニア雇用を積極的に推進している。山田さんもその一人だ。
「若いスタッフは若い人の気持ちをくんだ接客ができるでしょう。私はお年寄りの方の気持ちが分かります。店舗が混雑していて疲れていそうな方にはお声をかけて、席にリザーブカードを置き、座って待ってもらうようにもしています」