グローバル部品表と日本のマザー工場
中型油圧ショベルや大型ブルドーザーのマザー工場として、技術・技能の両面で世界各国の中核を担う大阪工場(大阪府枚方市)を訪ねた。ここは、北米、イギリス、中国、タイ、ブラジルなど、海外8拠点を統括する“司令本部”の役割を果たしている。
組み立てラインの統括機能はハイテク化が進み、工場内を案内してもらっているうち、ラインの各工程に大型のディスプレーが設置されているのに気づいた。画面には、「ポイント確認」「段取り」「中断」「停止解除」といった作業に関する項目が画像で表示され、作業指示情報、加工情報、検査情報がデジタルデータ化されて一元管理されていた。
これにより、作業者の人的ミスを未然に防ぎ、組み付け確認などの最終的な品質情報もITで管理する。ファクトリーオートメーション(FA)を極限まで追求した自動化設備や、最新の3次元CAD(コンピュータによる設計)データの活用を通じ、ライン内での品質保証まで実現しているのだ。マザー工場としての究極のハイテク武装工場といえるが、世界の八カ国のチャイルド工場にどのようなシナジー効果を与えているのだろう。
6年前にイギリスの現地法人に出向して組み立てラインのIT化に取り組み、現在は大阪工場に戻り、各国への技術移転を推進する西川知良生産技術部長は、「『月』の文化から『日』の文化へ変えるのが目標だった」と言って、飛躍的に向上した効果を次のように説明した。
「注文を受けてから出荷するまで、イギリスに赴任した当時はトータルで11週間近くかかっていました。そこで、20トンクラスの油圧ショベルのモデルで、100仕様あったのを8仕様まで10分の1以下に減らし、代理店と話をして月1回が一般的だった受注報告を毎日上げてもらうようにしたのです。そうしたコマツ流のやり方が徐々に効果を発揮し、今では受注から出荷まで、6年前に比べて3分の1程度に短縮されています」
もちろん、ここにも支援ツールとしてのITが重要な役割を演じている。従来、FAXでやり取りされていた受注の報告がインターネット経由でできるようになったこと、3次元CADの技術革新で開発・設計段階からの品質のつくり込みが可能になったことなどが挙げられる。
西川は「日本のマザー工場と海外のチャイルド工場を同じレベルにする」ことを自らの使命のように語るが、その兆候はすでに見えている。需要増から生産能力が限界に近づきつつある大阪工場に比べ、チャイルド工場の中でも長兄格に育っているのがタイ工場で、それはコマツが「グローバル・クロスソーシング」と呼ぶ柔軟な生産体制からもうかがえる。
これは、需要に対して現地工場の生産能力が不足する場合、他の工場から現地に建機を供給するもので、為替変動の影響を受けにくい世界の最適な場所で生産し、それぞれの工場が受注に見合った台数を確保できるメリットがある。油圧ショベルのグローバル・クロスソーシングの中核がタイ工場である。07年に生産能力を3000台から6000台へと倍に引き上げ、大阪工場が需要増に対応できない部分をタイから北米、南米、オーストラリアなどに供給している。