一人ひとりの働きは素晴らしいのに、全体として機能していない
——私たちは「上から見る」ということを重視しない育ち方をしてきたのでしょうか。
【柳沢】そうでしょうね。人に迷惑をかけるのをやめましょう。みんな同じようにやりましょうねということで、“上から目線”が絶対的に排除されてきました。「森を見る」というトレーニングがされていない。
パーツはいいんです。素晴らしい倫理観、素晴らしい働きをしている。ですがそれを組み合わせた時に全体としてうまく機能しない。最高のパーツを集めても、最高の自動車ができるとは限らないでしょう。システム論の用語でいうと「部分最適化」のみの状態。これが日本の仕組みです。
——それが労働生産性の低さに結びついている、と。
【柳沢】労働生産性を上げないと、これからの日本は大変なことになります。国家債務は1000兆円を超えていたところに、さらに200兆円追加する。国民一人あたりおよそ1000万、4人家族で家一軒分くらいの借金を抱えているということです。
法人や国民の資産でまかなえているから大丈夫と言う専門家もいますが、一番の懸念材料は「円の価値」が急激に下落した時。国家がまわらなくなります。エネルギー資源に関わるものを輸入に頼っていて、そこで例えば円の力が半分になってしまえば、輸入品の支払いが倍になってしまいます。輸入物資が基本的な物価を押し上げますから、ハイパーインフレ(インフレが進みすぎた状態)が起きます。
すでに我々も経験しているんです。例えばマスク。もともとは一枚20円くらいの品物でしたが、あっという間に10倍というようなことが起きています。私は1970年代のオイルショックが起きた時、ちょうど社会人として働き始めの頃でした。一年で給料が30%も上がりましたよ。
「妻の年収は103万円以下か」をチェックする作業はムダなだけ
——石油価格が上昇し、石油を輸入に頼らなければならない日本では物価が急激に上昇し、インフレが起きてしまったということですね。
【柳沢】これから同じことが起きる可能性があります。円の価値が落ちた状態で生産性を高めるには、今やっている仕事がどう成果につながっていくか、一人一人が意識することです。
労働生産性ゼロの典型例は、会社で社内管理のための書類を作る作業。何も成果を生み出していません。ほかにも例えば日本は給料に“手当”が多いですが、アメリカでは年俸制の組織が多い。年棒を12で割った金額が毎月振り込まれるだけ。一度プログラムを組めば、事務作業が必要ないですよね。ところが日本の場合は扶養手当を受け取るために、奥さんが年収103万円を超えたかどうかをチェックする作業が必要になる。しかし、その作業は決して成果につながらないわけです。