「勉強ができなくなった世代」を作らないことが最重要

【柳沢】最重要課題は何か。今は「コロナによって勉強ができなくなった世代」を作らないことが最も重要です。その対策によって生じた変動は時間をかけて吸収するべきです。例えば4月から8月までの「5カ月の遅れ」を5年間かけて吸収していくなど、いろいろな工夫ができます。

日本は教育に限らず、あらゆる分野おいて「修正」が苦手です。運転しながら不具合を点検し、修正していくということができない。スタート時点で“間違いが起きない完璧な仕組み”を作ろうとする。だから効率が悪く、労働生産性が低いのです。

それは今回のコロナ禍によっても明らかになりました。人口10万人あたりのPCR検査数が世界各国と比べて圧倒的に少ない。コロナ感染拡大の初期の頃から指摘されていますが、一向に変わりませんね。日本人にとって常日頃、こういう現象があるのです。

なぜPCR検査の数という「成果」が出てこないのか

——どういうことでしょうか。

【柳沢】日本の労働生産性、つまり労働者が1時間に生み出す「付加価値」が非常に低い。OECD(経済協力開発機構)で36か国中、21位。先進7か国の中で50年間最下位なんです。付加価値というと難しく感じますが、簡単に言えばプロダクト、作り出した「成果」です。コロナで考えると、PCR検査の数というのは「成果」。それが日本の普段の労働生産性と一致して低い、そう考えれば驚くにはあたらない。日本の伝統ともいえます。

——日本人は勤勉で労働の質もいいという印象があります。

【柳沢】確かに“労働の質”はいいでしょう。フランスにPCR検査機器を提供したところ、フランス大使館からその会社にお礼状が送られたというほど技術は素晴らしい。だけどそれが“成果”につながらない。世界に冠たる技術を持っているわけですが、宝の持ち腐れになっているのが現状です。

なぜか。「木を見て森を見ない」からです。それが私の結論。一人一人が自分が見える範囲、自分の持ち場はきちんとやっています。PCR検査に関しても、検査に関わっている人は誠心誠意、一生懸命働いている。けれども、ある大きさを超えると日本人は対応しきれなくなる側面がありますね。

本来、森の中のどの木を間伐するかという「森全体の生産性」をあげるための視点を持たなければいけない。そういった仕組みや組織、人(司令塔)が必要なのですが、日本では“上から見る”ということに非常に悪いニュアンスがある。「あの人は上から目線だよね」「鼻持ちならない奴だ」と。