世界の食糧飢餓問題を解決したい

ロジャース氏がこのビジネスを立ち上げた出発点は、アメリカの食品業界の変革ではなく「世界の食糧飢餓問題を解決したい」という思いでした。とりわけ発展途上国では、保冷の設備やインフラが整っていないために、食料を保存したり、輸送することができず、食糧不足に苦しめられている人がまだまだ大勢います。

そんな問題を解決してくれるテクノロジーこそ、自然由来のフードコーティングだったのです。

実際にApeel Sciencesでは、収穫された作物を保冷することなく、鮮度を維持したまま消費者へと届ける物流システムを、ケニアやウガンダなどの国で構築しています。

また、鮮度を長く保つことができれば、それだけフードロスを減らせるという効果もあります。国連食糧農業機関によれば、毎年、食用として収穫された作物のうち3分の1にあたる13億トンが食べられることなく、腐敗してしまったり、廃棄されているといいます。

こうした世界的な数々の問題に対しても、Apeel Sciencesのテクノロジーが一役買うことは間違いありません。

今では、ビル・ゲイツ氏と妻のメリンダ氏が行っている「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」をはじめ、多くの財団やベンチャーキャピタルが支援をしており、Apeel Sciencesはすでに4000万ドル(約44億円)の資金を集めています。

コーティングされたアボカドは「売上げ10%増」

Apeel Sciencesのフードコーティング技術を使用した作物は、現在レモン、梨、桃、アスパラガスなど30種類以上にわたり、コストコやアメリカの大手スーパーマーケットチェーンのハープス・フード・ストアーズでも取り扱われています。

Apeel Sciencesのフードコーティングを使った商品は、遺伝子組み換えのような技術とはまったく異なるので、特別な表示義務はありませんが、それでもあえて「表示」するようにしている点も注目を集めています。

斉藤徹『業界破壊企業 第二のGAFAを狙う革新者たち』(光文社新書)

「Apeel Sciencesのコーティングをされた商品」だと示すことで、むしろ商品を差別化、ブランド化しているのです。健康を害することなく、自然由来の商品でありながら、通常よりも鮮度が長持ちするのですから、付加価値がつくのも当然です。

実際、ハープス・フード・ストアーズでは、フードコーティングされたアボカドの売上げは10パーセント向上し、商品における利益は65パーセントもアップしたといいます。

さらに、農作物をコーティングするというユニークなテクノロジーにより、本来であれば輸送することが難しかった遠方にも新鮮な作物を届けることにもつながるでしょう。

また、輸送中の保冷が不要となれば、それだけコストやエネルギーの削減にもつながるかもしれません。「食」の問題を超えて、さまざまな社会課題を解決する可能性を秘めた技術といえるでしょう。

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