ほとんどの人の口の中には、歯周病菌が棲みついています。この菌が歯周病の原因となるのはもちろんですが、厄介なのはそれだけではなく、インフルエンザウイルスが粘膜に侵入するのを助けるプロテアーゼやノイラミニダーゼといった酵素を出すことがわかっているのです。つまり口腔内の衛生状態が悪い人は、インフルエンザにかかりやすくなるのです。反対に、歯医者で口腔ケアをきちんと受けて歯周病菌を減らせば、感染リスクを小さくできます。

事実、次のような研究があります。

インフルエンザが流行する冬季6カ月間にわたり歯科衛生士による口腔ケアを受けた人と受けなかった人との間で、その時期のインフルエンザ発症率が約10倍も違った(前者の発症率1%に対して後者の発症率は9.8%、つまり前者は後者に比べ発症率が89.8%低い)というのです(『日本歯科医学会誌』25号)。新型コロナウイルスにまで効果が及ぶかはわかりませんが、口腔内を清潔にして細菌数を減らすことが、まずは誤嚥性肺炎、さらにはインフルエンザなどのウイルス性疾患の予防につながるのは間違いないといっていいでしょう。

ブラッシング指導、自己負担240円

一般の患者さんにお勧めしたいのは、歯科衛生士によるブラッシング指導です。歯磨きというのは意外に難しく、自分ではきちんと磨いているつもりでも、必ず磨き残しがあるものです。ブラッシング指導ではまず、いつも使っている歯ブラシで普段通りに磨いてもらいます。その後、「歯垢染色剤」で歯垢が残っている部分、つまり磨き残し部分を染め出して、その人の磨き癖をチェックしながら、磨き方や最適な歯ブラシの選び方などのアドバイスを行います。

一口に歯ブラシといっても、ヘッドの部分の大きさや毛の硬さなど、いろいろ特徴がありますが、どれがいちばんいいというより、自分の歯の状態や磨き方に合ったものを選ぶべきです。たとえば、時間をかけて丁寧に磨くのが苦にならないという人は、それこそプロが使うようなヘッドの小さいものがいいかもしれません。しかし、大雑把な性格だとそういう歯ブラシを使っても、途中で飽きて歯磨きをやめてしまう可能性が高い。そこで、そういう人には逆に大きめなヘッド、あるいは電動歯ブラシをお勧めします。

こうしたブラッシング指導は健康保険の対象になり、自己負担は240円ほどです。

ちなみに、歯磨きをするタイミングや回数には諸説あって、歯周病学の世界的権威であるスウェーデンのヤン・リンデ医師の研究では、2日に1度しっかり磨くのが最も望ましいという結果が出ています。また、欧米では、酸性の強い食べ物や飲み物が原因で歯のエナメル質が溶ける酸蝕症の人の割合が多いこともあって、食後すぐの歯磨きは歯がすり減るからと敬遠されがち。代わりにフッ素の入った洗口液で軽くうがいをしたりするのが一般的です。

ただ、リンデ医師の研究のもとになった実験は歯科大学生が参加したものであり、一般の人よりは歯みがきへの意識やスキルが高いと考えられます。そういったことを考え合わせると、一般的には1日に2回くらい磨くのがいいと思います。