ISBN(※)規制も始まった。中国ではISBNは国から各国営出版社に割り当てられ、出版社の規模に応じて出版計画に基づき申請すればISBNが取得できた。しかし2018年以降はその数が30~40%減った。

※国際標準図書番号。取次や書店を通して本を販売しようとする場合、付けることを要求されるコード

表向きの理由は「粗製濫造の抑制」が目的だった。たとえば中国では世界文学全集、アンデルセン全集などがほぼすべての国家出版社から似たような体裁で刊行されている。また、版権無視の海賊版に加えて「山賊版」と呼ばれる人気作品に似せて作った模倣品が出回っているという問題もある。

しかし、おそらくはそれだけでなく、中国国内の政治状況と絡み合って思想や文化に対して厳しくなってきたがゆえの規制だ、というのが多くの業界関係者の見立てだ。今後、絵本市場が健康的な成熟を迎えられるかは未知数という状況だ。

IP展開と「中国ファースト」出版という抜け道

とはいえネガティブな材料ばかりではなく、新しい動きも起こっている。

たとえば、後述する『ティラノサウルス』シリーズで大人気の宮西達也の『ぼくはパンダ!』、日本でもミリオンセラーになった『ぴょーん』の著者である松岡達英氏の新作『変成了青蛙』(かえるになった)は日本より先に中国で刊行した。これは「国営出版社発の輸出できる作品を増やす」という政策的な要請をクリアしてスムーズに出版するための試みだ。規制の厳しい中国市場への対策をひねり出したわけだ。

そして本を出すだけでなく、絵本発のIP(知的財産)展開も進めている。日本では累計200万部超の宮西達也『ティラノサウルス』シリーズは、蒲蒲蘭から刊行されて中国で累計800万部超の大ヒットとなっている。

「中国でも日本同様、泣かせるストーリー展開——特に親子の愛、友情、弱きものが強きを助ける情、乱暴者のティラノが愛や情に目覚める過程——が人気の鍵のようです。蒲蒲蘭ではこの人気に注目したショッピングモールと提携して『ティラノサウルス』の原画展や恐竜の絵コンテストを行っています。そのほか不動産会社、政府機関とも提携して、さまざまな場所で朗読コンクール、自然教育、科学探検のイベントなどを実施しており、宮西さんには毎年、中国各地での講演をお願いしています」(ポプラ社中国現地法人 北京蒲蒲蘭文化発展有限公司初代董事・総経理石川郁子氏)