シリコンバレーも実践するアイディア発想法

ここで、デザインスクールで学んだ創造的なアイデアを生み出すフレームを1つ紹介いたします。クレイジー8(エイト)はGoogle傘下のベンチャーキャピタル子会社であるグーグル・ベンチャーズ(現・GV)が生み出した発想法です。

『感性思考』より

まず、「新しい○○を考える」のようにテーマを決め、1枚の紙を真ん中で1回折り、さらに真ん中で折り、もう1回真ん中で折って8つのマスをつくります。それから制限時間内に思いつく限りのアイデアを1マスごとにイラストで書き込んでいきます。

作業としてはこれだけですが、1マスにつき1分で考える超短時間勝負の発想法なので、脳をフル回転させる様子がクレイジーだというのが名前の由来のようです。

これはアイデアをイラストで描くのが基本なので、絵心のない人にとってはかなりハードルが高いと感じるかもしれません。絵の上手下手は関係なく、細長い楕円を書いてペンにしてもOK。「インクが永遠になくならないペン」のように言葉も添えて、1つのアイデアにします。

実際にクレイジー8を実践してみると、思考が深くなるのを実感します。1つ目のアイデアがイマイチなら、違う視点で2つ目を考えてみる。それでも納得できなかったら、さらに違う切り口でアイデアを考えてみる。その繰り返しで1つのアイデアが深掘りされていきます。

アイデアを形にしては初めて価値が生まれる

一般的に、ブレストという場は、声が大きい人の意見が過度にスポットライトを浴び、採用されやすい傾向にあります。一方で、本質的なブレークスルーにつながるアイデアは、長い時間をかけて沈思黙考してひねり出したアイデアだったりもします。

佐々木康裕『感性思考 デザインスクールで学ぶMBAより論理思考より大切なスキル』(SBクリエイティブ)

また、組織の中に一定数いる内向的なタイプの人はチームでアイデアを出し合う雰囲気は苦手な傾向があります。

クレイジー8は一人でアイデアを出すため、内向的なタイプでも参加しやすいのがメリットの一つ。いつもは会議で発言しない人のアイデアも等価に扱うことができるため、内向的な人からアイデアをすくい上げられる発想法でもあります。

発想法の話をしておきながらこういうことを言うのは憚られますが、私は「アイデア無価値論者」です。つまり、アイデア自体には価値はなく、それを形にして初めて価値が生まれるのだと考えています。

Googleが誕生した後に「俺も同じことを考えていたんだよね」と言ったり、iPhoneが発売されたときに「こっちのほうが早く考えていたのに」と言う人が現れるのは、よくある話です。どんなに早く優れたアイデアを考えていても、形にできていなかったら、それは何の価値もありません。