空港自体がまるで広い検疫場のよう

以来、神戸で帰国の機会をうかがっていたが、状況は刻一刻と変化。3月末の時点で、中国のビザを持っていても外国人は入国禁止。しかし、中国人(中国籍保有者)はPCR検査と14日間の隔離を条件に帰国できることが判明した。急きょ航空券を手配し、単身で飛行機に飛び乗った。エコノミーの搭乗率は3~4割ほどで、搭乗客の多くは防護服やビニールコートなどを着て完全防備。緊張感と張り詰めた空気が漂っていたという。

金氏は緊迫した上海の浦東国際空港の様子をこう語る。

「飛行機を降りると、防護服を着た係官に多数のブースがある場所へと誘導されました。各ブースでは機内で記入した『中国出入境健康申請カード』を基に『2週間以内に誰に会ったか』などのヒアリング。係官の対応は親切でしたが、ウイルスを徹底的に排除するのだという気迫を感じました。空港の外に出ると、壁が一面、黒いもので覆われていて何も見えない状態。フロアでは常に消毒をく係官がいて、空港自体がまるで広い検疫場のような感じでした」

写真=金鋭氏
上海の空港に到着後、居住地区ごとにヒアリングを受ける

それから自宅がある地区ごとに設置された待機所でパスポートと航空券を預け、集中隔離に同意する旨の書類にサイン。そこで2時間待たされた後、バスで隔離施設(ホテル)へ。ホテルでは個人情報をQRコードでスキャンされ、部屋番号を渡された。ホテル全体が隔離施設になっているが、エレベーターは感染防止のためにシートで覆われていて使用できず、外階段を使って部屋がある6階まで上がったという。

食事は1日3回、デリバリー禁止で清掃もなし

翌朝から本格的に隔離生活がスタート。食事は朝7時、昼11時、夕方5時の3回、部屋の入り口までお弁当が運ばれる。検温は1日2回。防護服を着た係官は室内に入らず、ドアノブも絶対触らない。フロントへの電話は通じるので、水は頼めば持ってきてくれるが、外部からのフードデリバリーは禁止。タオルは交換してくれるが、シーツ交換はなく、掃除もなし。

写真=金鋭氏
隔離されていたホテルの一室

費用は食事代込みで1泊200元(約3000円)、個人負担だ。むろん、検温以外の人と接することは一切できない。ビジネスホテル程度の広さしかない狭い一室に閉じ込められ、廊下にも一歩たりとも出られない状況は、想像以上に過酷で孤独だ。

金氏の動画を視聴していると、毎日少しずつ様子が変わっていくのが分かる。最初のうちは緊張が表情にも出ていたが、フェイスブックを見ている人々からの激励もあり、隔離生活も後半にしたがって、元気になっていったように見えた。