それは1月末から行われてきた武漢の厳しい都市封鎖をはじめ、全国各地で行われている検温やマスク着用の徹底、外出制限、空港での水際対策が、現状では高い効果を発揮している、と彼らが実感しているからだ(現在では外出制限はなくなり、地方へ行く交通網も問題ないが、出勤先などでの検温やマスク着用は徹底されている)。それが、彼らが自信を持つ根拠にもなっている。

日本のトップに強い危機感は感じられない

日本をはじめ海外では、中国政府による「初動の遅れ」や「情報の隠蔽」「感染者や死亡者のデータ改ざん」問題について糾弾する声が絶えない。確かにそういう声は当然あるだろうし、その通りだが、中国人はそのような海外から自国への非難を承知しつつ、「でも、海外のほうこそ、中国や中国人をバカにして、最初はこの問題と真剣に向き合おうとしなかったんじゃないか」と思い、不満に感じている。

そう思っているのは海外に住む中国人も同様だ。だから、たとえ14日間の厳しい隔離が待っていると分かっていても、自ら望んで帰国する人は今も増え続けている。

しかし、日本では、私が見たところ、政府のトップに強い危機感はあまり感じられず、ウイルスの怖さがいまだに分かっていないような言動をとる人も少なくない。マスクの着用が徹底されていないだけでなく、緊急事態宣言が出されたあとも、不要不急ではない外出を行う人がいる。

それどころか、外出自粛でストレスが多いからか、あるいはもともと根底にあるからか、中国や中国人への偏見や差別はますます増大している、と個人的に感じている。特にネット上での誹謗中傷は激しい。好き嫌いはともかくとして、中国人の本音を日本人が知ることは大事だと考えている私の元にも、匿名で誹謗中傷が投げかけられてくる。

「まずは実態を正確に知ることが何よりも大事」

金氏は「誰もが自分のことしか考えられなくなり、情報や経験をシェアせず、お互いに歩み寄れなくなってきているのは、とても残念なことだと思います。今は国家や体制を越えて、この未曾有の難局に立ち向かわなければならない大事なとき。それなのに、お互いに他国や他人を批判ばかりするのはなぜなんだろう、と思ってしまいます」と語る。

マスクの贈り合いなど、一部では温かい交流もあるものの、目に見えないウイルスに対して、日中間の溝は埋まらないどころか、むしろ溝は広がってしまったかのように見える。だが、金氏は「まずは実態を正確に知ることが何よりも大事」だと強調する。メディアの情報だけを鵜呑うのみにせず、何が正しいのかを知るための判断材料を、自ら得ようと努力することが必要だと私も思う。

14日間の隔離を終えて、上海市内の自宅に戻った金氏は、最後にこう語ってくれた。

「日本と中国。いま双方に埋めがたいギャップがあることは確かです。でも、これを埋めるためには、お互いの違いを知り、それを認めて、理解し合うこと——。これしかないと思っています」

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