スペインでは若年層の失業率が再び50%を超える事態も
当然のことだが、景気が冷え込めば雇用も悪化する。イタリアやスペインといった南欧諸国の場合、特にそのしわ寄せが若年労働者層、いわゆる若者におよぶと警戒される。こうした傾向は欧州を中心に先進国一般で観察されるが、それでもイタリアとスペインに代表される南欧諸国ではこうした傾向が強い。いったいなぜだろうか。
そもそも南欧諸国は、家父長制(男性の家長が絶対的な権力を持つ家族制度)が強い社会として知られる。一家の長に相当する中高年の男性は、正規の無期雇用というかたちで就業することができる。一方で、女性や若年層は非正規ないしは正規でも有期雇用という形での就業を余儀なくされるのである。
そのため、景気が悪化した場合に雇用整理の対象になりやすいのは、女性や若年層となる。先の債務危機の際、スペインでは財政緊縮策を採用したこともあり、最悪期に相当する2012年から13年にかけての失業率は25%程度まで上昇したが、若年層(15歳以上24歳以下)の失業率は50%を超える忌々しき事態となった。
イタリアやスペインといった南欧諸国では脱税が横行しており、政府の統計に反映されない経済(闇経済)がGDPの2割程度の規模まで発達していることで知られる。そのため現実には、飲食や観光などで違法(雇用主が社会保険料を払わない、など)に就業していた若者も多数存在しており、実際の失業者は統計の印象より少ないといわれた。
それに家族と同居していた若者の場合は、家長(父)による庇護を受けることもできた。しかしながら正規の職を得ることができたのは景気が回復した後、この間に彼らは着実に年齢を重ねた。当然、生涯年収はその分だけ少なくなったし、結婚や出産、住宅購入などライフイベントのタイミングも後ずれを余儀なくされたわけである。
過去に類がない大失業が若者を襲う危険性
コロナショックという言葉ができあがるほど、コロナウイルスの感染拡大で各国の経済はマヒ状態に陥っている。ヒトとモノが動かない経済危機が長引けば長引くほど、雇用はどんどん失われることになる。若者にそのしわ寄せがいきやすいイタリアやスペインの場合、過去に経験したことがない規模の失業問題が若者を襲うかもしれない。
懸念されることは、先の債務危機の際、失業にさいなまれる若者を救ったセーフティネットが、今回のコロナショックでは機能しにくいと考えられることだ。先の債務危機の際は、飲食や観光などで違法就労が可能であったが、状況が改善すればさておき、ヒトとモノが動かない現在ではそうした状況はまず見込みがたい。
それに、先の債務危機の際に失業した若者を救った家長(父)からの所得移転もかつてほど潤沢ではないと考えられる。コロナショックが生じるまでスペイン景気は堅調に推移していたが、その間に失われた貯蓄を十分に回復させることができた家計は多くはなかったはずだ。程度の差はあれ、イタリアやギリシャでも同様のことが指摘できる。
もちろん、コロナウイルスの感染拡大に早く歯止めがかかれば、若者を中心に失われる雇用は限定的となるだろう。しかしこのことは、言い換えれば、事態の収束までに時間を要すれば要するほど、若者が被る痛みは重くなるということを意味している。若年層の失業率が50%をはるかに上回る未曽有の事態に南欧諸国が陥るかもしれないわけだ。