便利になるほど「ただの決済」に近づいてしまう

【柳澤】「ぶんじ」は受け取ったほうも出すほうも、特別な体験ですよね、ただお金を払うのではなく、よりリッチな体験。

面白法人カヤック代表取締役CEOの柳澤大輔さん(撮影=プレジデント社書籍編集部)

【影山】交換の後味がよくなるってことですよね。

【柳澤】いわゆる地域通貨とはちょっと違う。

【影山】そうですね。いま地域通貨と言うとデジタル化されたり、より便利になっていく方向が一つはあると思うんです。

【柳澤】そうですね。僕らが手がけている地域通貨「まちのコイン」はアプリで使えるようになっています。

【影山】ただ、便利になっていけばいくほどお金のやり取りはただの決済になっていく。確かに決済ではあるのですが、僕はそこには人と人の仕事の交換があるというニュアンスというか、肌ざわりみたいなものを大事にできるといいなと思っていて。だからあえてこういうカードのようなアナログなかたちにこだわっているんです。後味がいいんですよ。

通貨というより、メッセージカード

【柳澤】ただ、書いて渡せるシーンでしか使えないから、使いにくいこともあるんじゃないですか。

【影山】それはあると思います。でも地域通貨にメッセージ性と通貨性があると考えたとき、ぶんじはメッセージ性の強い地域通貨を意識していました。お店で使うというよりも、個人対個人の間で、本を貸してもらったお礼に渡すとか、自転車を借りたお礼に渡すとか、わざわざ菓子折りを持っていくほどでもないような場合に使われることが多かったんです。これは通貨というより完全にメッセージカードですね。一方お店で使うときは、ケーキとコーヒーで1300円というときに、一部をぶんじで払うとか、普通にお金と同じような使い方ができます。もちろん13枚使って払ってもいいんですが、13枚これをお財布に入れている人はあんまりいないというか(笑)。

【柳澤】大変ですね、13枚入れるとなると。13枚に全部メッセージを書くのも大変でしょう。

【影山】一応1枚だけ書けばいいっていうルールはあるんですよ。でも「100ぶんじ」はあまりお金として使われないということもあって、2020年2月から「500ぶんじ」という新しい単位をつくりました。

【柳澤】100ぶんじだとメッセージカードとして使う人が多かったということですね。

【影山】はい。500ぶんじができたことで、もうちょっと通貨的な使い方が広がりました。たとえば飲食店もこの500ぶんじだけで食べられるメニューを開発したりしています。そうすると例えば2、3時間農家さんの草取りをお手伝いをして、500ぶんじを手に入れ、それで一食食べられる。